じょうねつダンス

#101 かふぇ

「…はぁ〜……」

 

 溜め息が一斉にもれる。

 木陰に座り込みながら、メンバー達はがっくりと肩を落としていた。

「どれだけ頑張って練習しても、あのPPPには追いつけませんって…」

 コハクチョウさんがそう言って、うつむいた。声が若干かすれているように感じる。一生懸命練習していることが伺えた。

「まさか、フーカさんに『PPPが来るからやらなくても良い』なんて言われないですよね…?」

「まっ、まさか、そんなことはない…と思うけど…」

 不安げな声を出すタンチョウさんに、マナヅルさんが弱気に返した。

 その会話に、ブラウンキーウィさんが加わる。

「でも、PPPの曲をカバーして歌おうと思っていたのに、それが出来なくなってしまったのは辛いです…」

 更に、コシベニペリカンさんとオオフウチョウさんもそれに続いた。

「…まぁ、曲はたくさんあるから大丈夫ですけど、お客さんにPPPと比べられるのは嫌ですよね…」

「私たちの努力が無駄になるのも嫌よ!」

 

 なるほど、確かにテンションは低いな…。

 

 少し離れたところからメンバー達の様子を見ていた私は、背後にいる博士に話しかけた。

「PPPっていうのは、そんなに凄いの?」

「まぁ、そうですね。あれだけのヒトとフレンズを魅了していたのですから。私は騒がしいのが苦手なので、どう努力しても好きにはなれませんが」

「へー…」

 一番後ろにいたアキちゃんが、小声で話した。

「スカイレースの準備を手伝っていた時も、皆さん凄いって言っていました。歌も上手いし、ダンスも綺麗で、ライブのチケットは一瞬で売れてしまったらしいです」

「そんなにすごいんだ…」

 

 それなら、あのメンバー達が落ち込むのも当然だ。公演内容が被っている上に、パフォーマンス力はあちらの方が何枚も上手。地区大会止まりの部活が、トーナメントで全国レベルのチームと当たってしまったような心境だろう。

 うーん、どうするべきなのか…。

 あと、どのタイミングであの輪の中に入れば良いんだ…?

 博士は何を考えているのか分からないので、一人試行錯誤する。

 すると、メンバーの1人が立ち上がった。

 

「落ち込むよりも練習よ! 時間はたっぷりあるし、PPPに追いつく事だって不可能じゃないと思うわ」

 全身がピンク色のフレンズ…彼女は確か、オオフラミンゴさんと言ったはずだ。

 彼女の声掛けに、メンバー達はゆっくりと立ち上がった。誰を見ても、あまり肯定的な表情はしていない。『PPPに追いつくなんて無茶でしょ?』と言いたげな様子である。

 

「彼女はオオフラミンゴ。メンバーの中では一番表現力が豊かで、アスカと共にメンバーを集めたフレンズです」

 博士の説明に、アキちゃんが頷いた。

「確かに、気品がありますね…」

「メンバー達を引っ張っているのは彼女です。他のフレンズはPPPの登場に落ち込んでいますが、彼女はとてもポジティブに受け入れているようですね」

「そうなんだ……それで、私は何をどうすれば良いんだろう…?」

 一番肝心なことを聞く。博士は誰よりも無茶なことを言ってくるので、気が置けない。


 しかし、今回の仕事は割と単純なものだった。

 

「メンバー達を、フェスティバルのステージに立たせるのです」

 

「…え? それだけ?」

「? それだけですが?」

「…いや、あの子達をステージに立たせるって、元々立つ予定なんでしょ?」

 アキちゃんも頷く。

 すると、博士は涼しい顔で答えた。

「もちろん、条件付きです。ステージに立たせて、大成功させるまでが仕事です」

「大成功…?」

「つまり、今の彼女達のままでは大成功はしないのです。練習は一生懸命していますが、成功させるという気持ちがないとステージは上手く行かないと思います。PPPのライブを何度も手伝っている私が言うのだから、間違いないのです」

「何か、演劇の時と似てるね…」

「ハクトウワシ達からは、ジャパリまんを大量にもらっています。もらったジャパリまんの分はきちんと働くのです。私は私でやることが山ほどあるので、ここはフーカに任せます」

「…わ、分かった…」

「私には、コミュニケーション力が少しだけ欠けています。こういった仕事は苦手なので、フーカには感謝しているですよ」

 いや、私もついこの間まで引きこもってたコミュ障なんだけど…

 まあいっか。ここに来てから、他人と話すのにもかなり慣れてきたし。

「では、任せたです。よろしくお願いします」

 そう言い残してから、博士は音もなく飛び立った。


 博士に礼を言われると、何か不思議な気持ちになるな…。

 博士の背中を見届けていると、アキちゃんが慌てた様子で声をかけてきた。

「ふ、フーカさん、皆さんどこかに行ってしまいましたよ!?」

「えっ、ええっ?!」

 振り返ると、さっきまでフレンズ達がいたはずの木陰に人影がなくなっていた。

「ど、どこ行ったんだろう?」

「さっき、あっちの方に歩いていくのを見ました!」

「よし! 行こう!!」

 私は、アキちゃんの指差す方に駆け出した。芝生の坂道をしばらく下ると、メンバー達の代わりにコンクリート製の少し大きな建物が現れた。

 入口の前に建てられた看板を読み上げる。

 

「…ジャパリ、カフェ……ホートクショップ…?」

 

「? カフェですか?」

「あ、うん。あの看板に、ジャパリカフェって書いてあるから」

「…全然分からないです…」

 そうか。フレンズは文字が読めないんだった。

 ともかく、メンバー達はこの建物に入ったのだろう。

 中に何があるのか分からず少し怖いが、取り敢えず入ってみることにした。

 

「多分、みんなここに入ったよね」

「うーん…多分…」

 私は、建物の外装を見回した。壁には白いコンクリートが塗られていて、所々にレンガが埋め込まれている。カラフルでお洒落な雰囲気のある建物だ。

 きっと、ヒトがいた頃にはカフェとして動いていたのだろう。

「…何となく危険じゃなさそうだし、入ってみよう」

「は、はい…!」

 ドアノブを握り、ゆっくりと引く。

 カランカラン、と音がした、その瞬間。

 

「あら? あなたは確か…」

 背後から、声をかけられた。

 

「わーーーーーっ!!??」

 元々緊張していたこともあり、私とアキちゃんは悲鳴を上げた。

「えっ、ええっ?!」

 声をかけてきたフレンズは、驚いた様子で退く。

 

「ごっごめんなさい、驚かせてしまいました…?」

 丁寧な言葉遣いで心配してきたそのフレンズは、真っ白い髪に服、羽を持っていた。尾羽は白一色だが、とても綺麗に広がっている。

 

「綺麗…」

 アキちゃんが、ぼそっと呟いた。

「あっ、ありがとうございます」

 そのフレンズはにっこりと笑い、礼を言った。そして、私の方を向く。

「あなたは確か、フーカさんですよね…?」

「…あ、うん。…えっと、確か…シロクジャク…さん?」

「はい! ひでり山以来ですね。何故ここへ?」

「えっと…オオフラミンゴさん達に用があって…」

 シロクジャクさんは、表情を明るくした。

「あぁ! オオフラミンゴさん達なら、今来たところです。どうぞお入りください」

 そう言いながら、シロクジャクさんはドアを開けた。

 そうだ。確かシロクジャクさんは、クジャクさんとカフェを営んでいると言っていた。ここが拠点だったのか。

 とはいえ、人がいなくなった今、食料などの調達はどうしているのだろうか…?

 疑問を抱えながら中へ入ると、甘い香りがすうっと入ってきた。木のテーブルと椅子が並び、壁には花や絵、写真などが飾られている。

 

 メッチャ綺麗じゃん!!


「…ん?」

 私は、すぐそばの壁に掛けられていた写真に目を引かれた。

 

「えっ、アスカ…?」

「いや、フーカさんですよ!!」

「フーカ?」

「お久しぶりですー!」

「どうしてここに…?」

 

 メンバー達に次々と声をかけられる中、私はその写真に釘付けになった。

 

「…フーカさん…?」

「どうしたんですか…?」

「フーカさん?」

 

 シロクジャクさんに顔を覗きこまれても、私の目線は写真から離れなかった。

 

 写真の中では、たくさんのフレンズに囲まれながら、数人のガイドと一般人らしき人が笑顔を見せていた。

 

 その中には、この前私のスマホを拾ってくれた男性のガイドと、私にそっくりなアスカと──

 



 

 アスカにそっくりな女性が写っていた。

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