#82  わるもの

 ボスの目線の先にいたのは、パークガイドの服を着た男性だった。

 

「セルリアンは危険だとか、セルリアンから逃げろだとか…」

 

 男性は、ボスの耳を足で押さえつける。

 

「…挙句の果てには、疑っていいのはセルリアンだけだって!!」

 

 ボスは思い切り蹴り飛ばされ、そのまま数メートル先までごろごろと転がった。

 

「アワワワワワ…」

 

 倒れたボスは、必死に足をばたつかせている。

 男性はボスに近づくと、その胴体をげしげしと蹴り始めた。

 

「お前が流したアスカの映像、全部見てたよ! フーカに僕の脅威を伝えるために、全部録画してたんだろ!? それともアスカに頼まれたのか?!」

 

 ボスは、ビーッビーッとサイレンのような音を出している。

 

「僕に取っては、アスカがここに来る方が緊急事態なんだ! セルリアンは悪者だって決めつけて追い出す…。人間は自分勝手だ! 人間の方こそ、外部から来たのに偉そうにパークを仕切って!!」

 

 ボスのベルトについたレンズのようなものに、ひびが入った。瞬間、光っていた目とばたつかせていた足が静止し、ボスは死んだように動かなくなった。

 

 それを見た男性はボスを蹴るのを止め、その場に背中から倒れ込んだ。

 

「…僕だって自我を持ってから、フレンズとは仲良くなれるものだって思ってたんだ…。でも違かった、こっちからいくら近づいても、向こうはみんな逃げてばっかり……」

 

 真っ青に澄んだ空を見上げながら、男性はぼそぼそと声を出す。

 

「フレンズは『友達』って意味……なら、セルリアンは何? 友達じゃ駄目なのか? どんなに良いセルリアンでも、友達にはなれないのか?」

 

 男性は、両手を力強く握った。

 

「…僕達からしたら、フレンズが、人間が…セルリアンだ!!」

 

 手元に転がっているボスにしがみつき、男性は立ち上がる。

 ボスのきしむ音がした。

 

「だったらせめて、この地方だけでもって思ってたのに…懲りずに団結しやがって…!」

 

 突然、カラン…と何かが金属に当たる音がした。

 

「…?」

 

 見ると、倒れるボスの足元に、ピンク色のピン止めが落ちている。

 

「…これは……」

 

 ピン止めを手に取り、間近でよく観察してから、男性は目を細め笑った。

 


「…いいこと考えちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「コンニチハ、僕ハラッキービーストダヨ。君ノナマエヲ教エテ。君ハ何ガ見タイ?」

 

「よし、ちゃんと動いてるな」

 目を光らせながら話すボスに、アスカは笑いかけた。

「おーっ! 流石カコさん! 完璧ですね」

 黄緑色の長髪を縛ったもう一人のパークガイドが、ボスとアスカの元に駆け寄った。

「ほらっ、カコさんも見ましょうよ! 作ったのはカコさんなんですから」

 『カコ』と呼ばれた白衣の女性は、軽く頷いてパークガイドの後を追う。

「…よし、じゃあミライさん、これからこのラッキービーストとパークを観光しちゃいますか!!」

 アスカにそう言われ、『ミライ』と呼ばれた黄緑色の髪のガイドはよだれを垂らした。

「そ、それは最高ですね…! ラッキービーストがちゃんと動くかも確認できますし…!行きましょう、アスカさん!!」

 ミライは振り返り、カコに「良いですよね?」と問いかけた。

 カコは、白衣のポケットに手を突っ込みながら答える。

「別に私は構わないけど…私が許可して良い事なの?」

「良いんです良いんです! 今日は大した仕事もないし。責任は私達が取りますから!」

 ミライのテンションに押され、カコは苦笑いした。

「そう。じゃあ、行ってらっしゃい」

 瞬間、ガイドの二人が両手を上げて喜んだ。

「「やったー!」」

「どのチホーに行きます? やっぱりここはキョウシュウですよね?」

「いやいや、ホートクにしましょうよー!」

「じゃあ、お互いあまり知らない地方にしますか? アンインとかリウキウとか…」

「なるほど、それが良いかも!」


 声を弾ませながら部屋を出ていく二人の背中を見ながら、カコは小さな溜め息をつき、また苦笑いした。

 


「…全く、いつまで子供なんだか…」

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