#65  あらたなであい

 あまりにも不穏だ。

 

 セルリアンの大量発生。

 この状況は正しく、あの事件の前触れにあったものと全く同じだ。

 フレンズ達は、危機感を抱いている。

「…でも、やっぱりフーカにこのことは言っちゃダメよね」

「今のところは、言わない方が良いのです」

「ただ、セルリアンが大量発生したということは、大体のフレンズが知ってしまっています。これは非常にまずいのです。どうしましょう、ハカセ」

「確かに、みんな一気に警戒心が強くなったというか…」

「いくらフーカに悟られないようにすると言っても、そろそろ限界なんじゃない?」

「そうだな…また同じことが繰り返されるのは、何としてでも避けたいところだが」

 

 ハカセとジョシュのログハウス。

 先程セルリアンを討伐したフレンズ達が、討論を始めていた。もちろん、フーカを抜いてでの話し合いだ。

 

「ハカセ…?」

 ジョシュが、熟考するハカセに応答を促す。

 ハカセは顔を上げて答えた。

「…とりあえず、今は様子を見ることしかできないのです。怪しい者が現れたりしたら、また対策を練りましょう。今、最優先させるべき事は、フレンズ達を落ち着かせることなのです。」

 ここでハカセはこほんと咳払いし、話を続けた。

「誰かがフーカにあの事件のことを話すのも、時間の問題なのです」

 室内の空気が張り詰める。

 数秒間の沈黙を破ったのは、ログハウスのドアが開く音だった。

 全員の目線が、一斉にドアに集中する。

 ドアを開けて入ってきたのは───アリツカゲラだった。

「? アリツカゲラ?」

「どうかしたのですか?」

「フーカと一緒なんじゃなかったかしら?」

 アリツカゲラはここまで急いで来たようで、息を切らしながら答えた。

「い、一緒じゃ、ないです…」

「え?」

 瞬間、フレンズ達は首を傾げる。

「でも、フーカはハカセがログハウスに送ったはずじゃ…」

「あ、今は一緒にいないから、ってこと?」

「ち、違います…! 私が最後にログハウスに入ったのは、何日か、前です…」

「なっ…?!」

 ハカセの表情が、硬直した。

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

「アスカさんは、何故かジャパリまんが苦手だったんですよ〜。それでも、どうしてもフレンズ達と同じものを食べたいからって、無理して食べていたんです〜」

 アリツカゲラさんはテーブルの上にじゃぱりまんを追加してから、その内の一つを私に差し出してくれた。

「あ、ありがとうございます…こんなに美味しいのに、苦手だったんですか?」

「みたいですね〜。どうも、中身の具よりも外側の生地が苦手だったらしくって〜…。あの食感がどうも口に合わない、と言っていた覚えがあります〜」

「アリツカゲラさんだけには、その事を話していたってことですか?」

「そうです〜。ここは元々アスカさんが住んでいた家なのですが、私はここのレイアウトが大好きで、よくお邪魔させていただいてたんです〜」

「なるほど…それでアスカさんのこと、よく知ってるんですね」

「かなりお話していましたからね〜」

 これは丁度良い。アスカのことを一番知っているフレンズから色々と話を聞けるのはありがたい。

 どこから聞けば良いか分からないが、まず知りたいのは私との関係があるかないかだ。顔が似ているということは、私とかなり近い親戚だという考えが一番有力だ。

 が、あんなに私にそっくりな親戚は、見たことがない。

「あ、そうそう、イワシャコさん達から聞いたかもしれないですが、アスカさんは、ギターがとてもお上手でしたね〜」

 私が質問に悩んでいる内に、アリツカゲラさんから話題を持ち込んでくれた。

「あぁ、みたいですね」

「何でも、がくせー? の時にやっていたんだとか」

「高校生バンドですかね…?」

「こーこーせい、バンド…?」

「あっいや、パーク外での話です!」

 フレンズ達に『学生』という概念は少しあるようだが、高校生や中学生の存在は知らないのだろう。人間にとっては常用語だとしても、フレンズに話す時は気を使わなければいけない。

 しかし、バンドをやっていた親戚など一人もいない。余計頭が痛くなってきた。

 やはり、夢の世界にだけ存在する架空の人物だと断定して良いのだろうか? これ以上掘り下げても、何の情報も得られない気がする。そもそも、夢の中でこんなことを考える方が馬鹿馬鹿しいのか。

 頭を使いに少し疲れた矢先に、ふとスマホの存在を思い出した。

 ここに来るまで完全に依存していたスマホも、最近の忙しさからかその存在すら忘れていた。確か、ズボンのポケットに入れっぱなしであるはずなのだが……

「…あれ?」

 ない。

 慌てて、ズボンにある全てのポケットに手を突っ込む。が、どのポケットにもスマホどころか何も入っていない。

「…あれ? おかしいな…」

「どうかしましたか〜?」

 こちらを心配そうに見るアリツカゲラさんの声も耳に入らないほど、私は動揺していた。

 まさか、セルリアンと戦闘した時に落とした?

 いや、このポケットにはスマホがすっぽりと入っていた。簡単に落ちるはずがない。

 なら、どこへ…?

「フーカさん〜?」

「すみません、ちょっと外行ってきます!」

「えっ!? ちょっと、フーカさん?」

 驚くアリツカゲラさんをよそに、私は立ち上がり、ドアに向かって駆け出した。

 駄目元で外に飛び出し、玄関の周りを見渡す。が、ログハウスの明かりにかすかに照らされた地面からは、スマホのようなものは見て取れなかった。

 額に冷や汗がつたった、その瞬間。

 

「探し物は、これですか?」

 

 聞き慣れない声が、背後から聞こえた。

 私は驚いて、振り返る。

 振り返って、驚愕した。


 この時、私は初めて──

 

 この世界で、男性を見た。

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