かしこいハカセのかしこいプラン

#41  こうろん

「だーかーらー、さっきからここは私達の陣地にすると言っているじゃあないですですか!」

 

「そうは言われても、私達だってここを使いたいのよ!」

「そうよ! ダチョウ姉さんの占いがここを当てたんだから!」

 

「そんな理由で場所を横取りされたら困るよー! ここはステージから一番近い場所だから、お客さんが一番来やすいのに!」

「リコの言う通りですです! さっさと陣地を譲れですです!」

 

 目の前で飛び交う怒声を前に、私はなす術もなく苦笑いを浮かべていた。

 

 重労働、というくらいだから、ステージの設営をやらされるのかと思いきや、私が押し付けられたのは出店するフレンズ達のブース場所の割り振りだった。

 ステージの設営は、アリツカゲラさんやウミウさん達だけで十分間に合っているそうだ。

 当の博士と助手は、現場監督をするのですと言い張りながらも、じゃぱりまんを頬張りながらフレンズ達の行動を見守っているだけである。まぁ、予想通りの展開ではあるのだが…。

 

 現在、私の前で口論を繰り広げているのは、あの名前が長いフレンズ三人組で結成された園芸同好会組と、ダチョウさんとレアさんの占いコンビである。

 

 同じ場所を出店の陣地にしたいようで、ここ数十分間、ひたすらもめ続けているらしい。

 その中に、私が一人放り込まれた訳だが…

 

 はっきり言って、どう仲介すれば良いのかさっぱり分からない。

 

「こっちだって、客が来やすいってだけで選ばれたら困るのよ!」

「そうよ、私達には占いで決めたっていう列記とした証拠があるんだから…」

「占いってほんとに信じて良いんですですか?!」

「そうだよ! 信ぴょう性ないじゃん!」

「何ですってぇ!? 姉さんの占いが信じられないと?!」

「ぐぬぬぬ…許せません! 絶対許せません!」

 

「あ、あの、ちょっと落ち着いて…」

 

「うるさいっ!」

 

 四人は一斉に声を揃えた瞬間、はっとして私を見た。

 どうやら、喧嘩に夢中で私の存在に気づいていなかったようだ。

 

「あ…アスカ?!」

「えっ、アスカ?!」

「アスカ!?」

 

「いや、だから私はアスカじゃなくって…」

 

「フーカだ!」

 

 この四人、意外と息が合っている。

 そこまではっきりと声を揃えなくても…。

 フレンズ達にビシッと指を差され、私は言葉に詰まった。

 とりあえず、そうだよ、と答える。

 

「あー、ビックリしたですです…てっきりアスカかと…」

「いつからいたの?!」

「さっき、ハカセ達がフーカが来るって言ってた気がするわ!」

「もしかして、どっちのチームがこの陣地にふさわしいか、フーカが決めてくれるのかしら?」

 

「…え?」

 

「なるほど! それは良い考えだわ!」

「ヒトって、ハカセよりも賢いんでしょ?」

「じゃあフーカ、よろしくですです!」

 

「いや、ちょっと…」

 

 この世界に来て何度目かの、フレンズ達から向けられる期待の眼差し。

 私は、このまっすぐな目に弱いようだ。

 

「わ、分かった…。じゃあ、それぞれ本番でやりたいことを私にもやってもらおうかな。それで、私が満足した方を…」

 

「ほんと?!」

「分かったわ!」

「えぇ、望むところよ!」


 ノリが良いのか、悪いのか…

 四人の息は、まるでピッタリだ。

 

 両者の趣味である園芸と占い、全く違った分野同士の競い合いの審判をすることになってしまった。

 これは、昨日までのバンド練習よりも気を遣いそうである。

 四人はかなり闘志に燃えているようだが…

 

 …あれ、四人?

 

 ダチョウさん、レアさん、オナガ何とかハチドリさん、モリ何とかフクロウさん…

 

 もう一人、いなかったっけ…?

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハカセ、フーカは四人の口論にかなり手こずっているようなのです」

 

「そうですね、助手…」

 

 慌てふためくフーカをステージ上から見下ろしながら、ハカセとジョシュはジャパリまんを頬張っていた。

 

「ステージ設営の現場監督も楽じゃないのです。フレンズ達が怪我をしないか見守る…これほど重要な仕事はないのです」


「そうですね、助手…」

 

「フーカについて、何か分かったことはありますか?」

 

「……………」

 

「…ハカセ?」

 

 ジョシュは、どこかを一点に見つめるハカセの肩を掴み、揺さぶった。それでも、ハカセの目線は微動だにしない。

 

「どうしたのですか? また、いつもの癖ですか? 考え事を始めると無口になる…」


「ジョシュ」

 

「はい?」

 

「ちょっと用事を思い出したのです。現場監督、頼むですよ」

 

 ハカセはそう告げると、その場ですっくと立ち上がり、羽を広げた。

 

「えっ、どこへ行くのですか?」

 

「優秀なジョシュになら、安心して任せられるのです。それでは、行ってくるのです」

 

「は、ハカセ!」

 

 猛スピードで山の向こう側へと飛んでいくハカセの背中を見ながら、ジョシュは首を傾げた。

 

「どこへ行くのでしょうか…?」

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