#34  はなうた

 トキさんとショウジョウトキさんの声は、かなり特徴的だった。正直に言うと、酷い。

 

 ソの声を出しているつもりなのだろうが、私には車のブレーキ音にしか聴こえない。

 さっきから、私が音を出し、それに続いて二人が声を出すということを、かれこれ五分ほど続けている。が、二人の音程は全く合わない。

 

「うーん、ダメだね…」

 

 音量は大分小さくなったのだが、それでも音程が合っていなければ博士は絶対に認めてくれないだろう。

 

「もう少し、高い音にしてみる?」

 

「はい、お願いします! (ドヤァ)」

「なかなか上手く行かないわ、ごめんなさいね」

 

 二人は申し訳なさそうに答えた。

 

 ショウジョウトキさんが私に怒った後、私は状況が掴めないままとりあえず謝った。変なこと言ってごめんね、と。すると、ショウジョウトキさんは我に返ったようで、フーカは何も悪くない、私が悪かったですと謝ってから、いつものドヤ顔を始めた。立ち直りが実に早いフレンズである。

 

 私は、今度は高いドの音を出した。

「これはどう?」

 

 すると、二人はすうっと息を吸い、ドの音と声を合わせようとし始めた。私はしばらく何も言わずに聴いていたが、やはり車のブレーキ音にしか聴こえない。二人とも、歌う姿勢はきちんとできているのに、なぜ綺麗な声が出せないのだろう?

 

「どうですか? さっきよりは上手く出せた気がするんですけど? (ドヤァ)」

 

「うん、まぁ、さっきよりは良くなった気がする。もうちょっと練習してみよう」

 

 それから音程も変えながら何度も練習したが、二人の声は上手くピアノと合わなかった。本当に、成す術なしといった状況だ。

 私も諦めたくはないが、正直この状況ではここから更に良くなるとは到底思えない。

 よく二人は自信を持って歌えるな、と関心してしまう。

 

 どのような練習法が一番効果的なのだろうか。私はしばらく考える。この二人の場合、やる気はあるようだが、それでもここまで音痴だと対策法が全く見つからないのだ。

 ここから三日間で演奏が形になるのは、まず有り得ない気がする。

 

「調子はどう? フーカ」

「上手く行ってるっすかー?」

 

 首を傾げる私の元へ、少し離れた場所で練習していたイワシャコさんとキクイタダキさんがやってきた。

 

「あ、お疲れ様。なかなか上手くやれないんだよね。どうすれば良いんだか…」

 

「そうっすか…。オイラ的にはとても良い声で歌ってると思うんですけどね…」

「私もそう思うよ。ギターにとても合うし」


「そっか…」

 

 この二人がトキさんとショウジョウトキさんの歌声を普通に聴いていられるのが凄い。もしかして、耳が悪いのだろうか?


「あと二日でフーカが満足いかなかったら、博士も絶対に認めてくれないもんね…。うーん」

 

 しばらく、沈黙が続いた。

 しかし、考えても考えても、やはり二人の歌声を改善するような方法は見つからないのだ。

 

「…では、ここで少し休憩しましょう! (ドヤァ)」

 

「…はい?」

 

 沈黙を破ったショウジョウトキさんの一言に、私たちは目をぱちくりさせる。

 

「これ以上考えたって仕方がないでしょう? 私だってちょっと喉が疲れてきましたし(ドヤァ)」

 

 そこ、ドヤ顔するとこなのか…?

 と、思ったが、確かにこのタイミングで休憩した方が頭を整理できて効果的かもしれない。

 私は、ショウジョウトキさんからじゃぱりまんを貰い、倉庫の外の広場で頬張った。

 ここは山岳地帯の谷間にある小さな草原で、青空をバックにそびえ立つ山々の眺めが非常に美しい。綺麗な景色を見ながら食べるじゃぱりまんは、いつもより美味しく感じられた。

 

「ここまで晴れたのは久しぶりね」

 

 ふと、トキさんがそう言いながら、私の隣にゆっくりと座った。

 

「そうなの? 昨日も一昨日も晴れてたけど」

 

 私は、トキさんの顔を覗きこむ。

 

「えぇ。ホートクはいつも晴れてるわ。たまに雨も降るけど。でも、今日は雲一つない…快晴、という天気ね」

 

「なるほど、快晴ね」

 

「ところでフーカ、ずっと聞きたいことがあったのだけど」

 

「ん? 何?」

 

 トキさんはそう聞くや否や、私をまっすぐ見つめ、

 

「あなた、本当にアスカじゃないのよね?」

 

 と、問いかけた。

 

「…うん、すごく似てるらしいけど、違うよ」

 

 つい、残念でしたと言いたくなってしまう。アスカじゃないよね、と聞かれるのは、今回で何回目だろうか…。

 

「やっぱりそうよね…」

 

 トキさんは、軽くうつむいた。

 

「私とアスカさんって、そんなに似てるの?」

 

「似てるわよ。みんなそう言っているもの。性格もしぐさも、そっくりだわ」

 

「そうなんだ……」

 

 トキさんが何か言いかけた瞬間、テンポの良い鼻歌が背後から聴こえてきた。

 

「フンフフフーン♪ フーカ、ジャパリまんのお味はどうですか? (ドヤァ)」

 

 振り替えると、いつものようにドヤ顔をしたショウジョウトキさんが飛んできていた。

 

「あぁ、美味しいよ、ありがとう………え?」

 

 私は、先程のショウジョウトキさんの言動に、ふと疑問を抱く。

 

「え? どうかしました?」


「いや、ショウジョウトキさん、今、鼻歌歌ってたよね?」

 

 ショウジョウトキさんは、そうですが? と、平然と言ってのけた。

 

「機嫌が良いときは、よく歌うんです。良いことでしょう? (ドヤァ)」

 


 鼻歌……歌えてんじゃん!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る