#32 やきとり
四人は、期待の眼差しで私を見ている。
その、アスカとやらほど大したことはしてやれないが、私だってロボットじゃないし、ある程度のことなら教えられる。
それに、音楽の知識なら少しはあるから、丁度良い。
「えーと……まずさ、四人のバンドって、名前付いてる?」
「名前?」
トキさんが首を傾げた後、ショウジョウトキさんが恒例のドヤ顔をしながら答える。
「もちろんありますよ! 確か、アスカがつけてくれたんですよね! (ドヤァ)」
「そうそう。私たちはね…」
四人は、声を揃えた。
「ファイアーバード、略して焼き鳥!!!」
私は、唖然とした。
「や……焼き鳥?」
「うん、そうだよ、焼き鳥。カッコ良いでしょ?」
イワシャコさんが、胸を張って答える。
「何かおかしいっすか?」
キクイタダキさんが疑問符を投げ掛けてきたので、私は慌てて両手を横に振った。
「あーいやいや、おかしくなんかない! 良い名前だと思うよ、格好いいし、うん」
アスカは、一体どういうつもりで命名したのだろうか…。いくら鳥とはいえ、もっとその、センスのある名前を付けられなかったのだろうか?
「ですよねー! 格好いいですよね! (ドヤァ)」
「私も、とっても良い名前だと思うわ」
ショウジョウトキさんのドヤ顔とは裏腹に、トキさんは穏やかに笑う。
焼き鳥ね、うん。
まぁ、本人達が良いなら良いか。
そこにツッコミを入れるような者も、この世界には私以外いない訳だし。
「で、そのアスカっていう人に、バンドを教えてもらってたの?」
「そうっすね。とっても良い方でした!」
「がくせー? とかいう時にバンドをやってたらしくて、ギターもドラムもとっても上手だったよっ」
なるほど。高校生バンドか何かをやっていたのだろう。
「でも、確かキーボードは全然演奏できなくて、そのせいで私達もあれだけは音を出せないんだ。だから、あそこに置きっぱなし…。もったいないよね、あれかあればもっと良い演奏になるって聞いたんだけど」
キーボード。
さっきの夢が、脳裏にはっきりとフラッシュバックする。
「そっか……」
「アスカには、私達が入った時の演奏も聞いてほしかったわ」
「もっと早く誘えば良かったね…」
「良いんですよ! (ドヤァ) 今はフーカがいるんですから(ドヤァ)」
「そこまで期待されても、応えられるか分からないけどね…」
「じゃあ、どんどん練習しましょう! ちゃんと博士に認めてもらいたいんですから! (ドヤァ)」
練習か…。
まさか、二人の歌がここまで酷いとは思ってもいなかったので、私が考えていたプランではまず博士には認めてもらえないだろう。
この二人の場合、まずは『音』を出すことが大前提だ。あれはどう考えても、叫んでいるようにしか思えない。
「うーん……とりあえず、トキさんとショウジョウトキさんの歌をもっと綺麗にする必要があるかも。ギターとドラムに合わせるのはその後だね」
「なるほどなるほど……フーカには、私達の歌を綺麗にする力もあるんですね! (ドヤァ)」
「いやいやいや、私にそんな力はないって。私がどんなに一生懸命教えても、二人が努力しない限り博士には認めてもらえないと思う」
何言ってるんだ私は。これじゃ、大嫌いなあの先生と同じだ。
そんなことを勝手に考えてしまったが、二人はやる気満々な様子だった。
「もちろんだわ。一生懸命やるわよ」
「努力すれば夢は叶うって、アスカも言ってましたからね! (ドヤァ)」
かくして、焼き鳥と私の三日間が始まったのである。
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