#4   じゃぱりまん

「着いたわよ! …って、あなた起きてる?」

 目的地にはあっという間に着いたが、私はすでに失神しかけていた。

「い、一応…。ありがとう」

 女の子の呼びかけに、かすれた声で礼を言う。

 

 地面に足をつき、ふらふらしながら前を見ると、そこにはキャンプ場のコテージのような、小さなログハウスが建っていた。

 この中に、博士がいるのだろうか?

 

「レースの良い練習になったわね。さあ、入って!」

 

 一緒に運ばれてきた記憶喪失の女の子は、今にも死にそうな表情でよろよろと歩いている。

「大丈夫?」

 私が聞くと、女の子は小さく頷いた。

 それを見た三人組の一人が、励ますように女の子に声をかける。

 

「この中にはジャパリまんがたくさん貯めてあるからな。あ、あとハカセもいるはず…」

「呼びましたか?」

 

 突然、背後から聞き慣れない声がして、私達は一斉に驚きの声を上げた。

 

「びっくりした…。驚かさないでよ、ハカセ」

「失礼な。ちょっと出掛けて帰ったらおまえ達がいたので、後ろから声をかけただけなのですよ」

 

 その声の主は、コテージのドアの前まで音もなく飛ぶと、灰色のコートをひらりとたなびかせて着地した。

 どうやら、この子が「博士」のようだ。

 見た感じ、他の子達よりも幼く見えるが、どことなく賢そうな雰囲気を漂わせている。

 

「まさか、頼んでからたったの半日でヒトを見つけるとは…。さすがおまえ達なのです」

「ありがと。ところで、この中にジャパリまんって残ってるわよね?」

「? もちろんあるですが?」

「この子、何故かヒトと一緒にいて、今すごくお腹が空いてるみたいなのよ。だから、いくつかあげても良いでしょ?」

 三人組の一人が、記憶喪失の女の子を心配そうに見ながら言った。

 

 すると、博士は女の子を大きな目で見つめながら、

 

「初めて見るフレンズなのです。元気になったら、色々と話を聞くですよ。もちろん、そのためにジャパリまんは譲ってやるのです」

 

 と、答えてくれた。

 

 じゃぱりまん、というものがどのような味なのか分からないが、とりあえず、この子のお腹が満たされれば良い。

 女の子も、安心したようにそっと胸を撫で下ろした。

 

 博士に続いてログハウスの中に入ると、優しい木の香りが、鼻にすっと溶け込んできた。

 見ると、木製のダイニングテーブルの周りを、本がぎっしりと詰まった棚がずらりとが囲んでいる。

 

 そして、そのテーブルの上に、たくさんのまんじゅうが色とりどりに重なっているのが見てとれた。あれがじゃぱりまんだろう。

 

「どうぞ、座るのです」

 博士に案内されて、私と女の子は、切り株でできた椅子に腰をかけた。

 女の子はじゃぱりまんを手に取ったかと思うと、ものすごい勢いで頬張り始めた。

 引っ込み思案な彼女がここまで必死になっているのを見ると、よっぽどお腹が空いていたということが痛いほど分かった。

 じゃぱりまんをあっという間に食べ終えると、女の子は満足そうに笑った。

 

「とっても美味しい…!」

 

 初めて見るその子の笑顔につられて、私は、半年振りに笑ったのだった。


 どうやら、この世界は日本よりもずっとずっと優しい世界のようだ。

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