第10話 衝撃の事実
わけも分からぬまま中庭に向かうと、柊馬と聡明が先にテーブルを確保していた。聡明が隼たちに気づいてテーブルに呼ぶ。
「どうしたの?突然走ってどっか行くなんてさぁ」
座るなり柊馬の質問が飛んでくる。薫がへらっと笑い、誤魔化した。
「いや、借りた本を返さねーとって思って」
「図書室なら五時まで開いてるよ?」
「人から借りたモンだからよぉ」
「そっか〜」
納得した柊馬はサンドイッチにかぶりつく。聡明は不思議そうに首を傾げた。
「真野が、本を借りるなんて初めて知った。誰から借りたんだ?」
薫は「しくじった」と言わんばかりに眉間にシワを寄せた。だが妙案が浮かんだのか、表情が明るくなる。
「隣のクラスの田山。面白そうな歴史の本を借りたんだ」
消えた生徒の名前を出した。聡明は「そうか」と腑に落ちて終わり。柊馬も興味はなさそう。失踪(?)直後じゃ反応は鈍いか。
「そういえばその田山くんってさ」
柊馬が唐突に話を振った。サンドイッチを口いっぱいに詰めて何気なく。
「そのクッキーよく買ってたみたいだよ。しょっちゅう食べてんの見てたもん」
「そうだったのか」
「聡明気づいてなかったの?まぁそうだよね」
薫と目配せして頷く。薫はその場を離れ、隼は二人に頼み事をする。
「クッキーをよく食べてた奴を、知ってる限り教えて欲しいんだけど」
* * *
冬馬と聡明の情報で得たのは五人。男女が入混ざった五人の名前をじっくり眺める。
五時間目──体育館の裏
青々とした葉を着飾る木の下で風を浴びる。バスケを楽しむ男子と黄色い声をかける女子。青春の一ページを描く彼らを背に、草むらに腰を落として土の匂いを嗅いだ。
鼻を突く辛い匂いを漂わせて隣に誰かが座る。ヒリヒリする匂いはカラカラと笑う。
「来たか、薫」
「サボりか?隼」
学校にいるのにやる事は警察の仕事。青春の『せ』の字もない。
「どうだった?」
「家庭科部は特に変なモンとか入れてないらしい。小麦粉のメーカーが変わったくらいだってさ」
「そうか。柊馬と聡明に聞けたのは五人だ。いずれも失踪者リストの人物」
薫にスマホの失踪者リストを見せる。失踪した時期は違うがクッキーを買い込んでいた時期は同じ。薫は唸って頭を掻く。
「クッキーを共通点候補ってことにしていいのか?」
「一応他の共通点を探ってみるが、それが原因なら問題だな」
「えー、じゃあ食わずに鑑識?もったいねーなぁ……」
薫は残念そうにクッキーを袋ごとジップロックに入れる。午後のおやつにでも食べるつもりだったのだろう。しかし、下手に手を出すわけにもいかない。
「一枚だけ」「我慢しろ」「ケチ」
互いにスマホを片手に仕事をこなす。隼がリストの更新をしていると、ひそひそ声が近づいてきた。
薫と体育館の死角に隠れて様子をうかがう。草を踏む複数の音に警戒心が高まる。
教員か──?いや、この学校では授業中に巡回はしないはず……。
息を潜めて先ほどまでいた木陰に現れた人物を確認する。
来たのは同じくサボりに来た生徒たち。安堵のため息がこぼれた。だがサボりの生徒達は隠れる気がないのか堂々と大声で笑う。
……やめて。俺たちまでバレるから笑わないで。
「……使えそう」
「はぁっ!?」
薫が生徒たちに接触する。死角から飛び出した薫に驚いていたが、すぐに打ち解けて話し込んでいた。話の内容を知りたいが彼らまでの距離が遠すぎる。
「……ったく、誰だよこんな時に」
ズボンのポケットでスマホが震える。画面を確認すると薫からの着信だった。通話にして耳に当てると、内容がはっきりと伝わる。
『お前らも隣のクラスだったよな?』
『ああ。真野って案外ちゃんと見てんのな』
『クラスにいねーからじゃね?』
『おー、わかってんじゃねーか』
チラッと薫に目をやるとスマホを後ろに隠して話をしている。
──グッジョブ。
『あー、あのさぁ。お前らのクラスの田山って今日来てるか?』
『田山……?』
『そうそう。本借りてんだけど、いるなら返してぇなーって』
彼らの反応に耳を
『誰だそいつ』
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