第15話 少秘警とお茶会
ミラーとはまた違う笑みを浮かべる
狂気を含んだその笑みは、それだけで
それだけならいいが──
相手は自分よりも年下の少年だ。短い期間ながらも、隼は薫が関わった事件に巻き込まれたり、警護課本来の仕事をしたりとそれなりに場数を踏んだ自負がある。
それなのに、少年に対して恐怖心を抱くなんて、初めての経験だった。
マッドハッターは指を鳴らした。スポットライトが一斉に点いて会場全体が明るくなった。
「さてさて〜ぇ、
一人でベラベラと喋るマッドハッターは何も無いところに手を伸ばし、何かを取って引き寄せる動作をした。
「お茶でもいかが〜ぁ?」と言うその手にはティーカップがあった。手品にしてはありえない光景だ。
マッドハッターは紅茶に一口つけてカップを地面に落とす。地面に着く前にティーカップは消えた。驚愕している間にもマッドハッターは口を動かし続けた。
「まぁ来た客はどんな奴でも〜ぉ? ちゃ〜んともてなす主義なんで〜ぇ。きっちりもてなしますよ〜」
「ようこそ〜! マッドハッターの『お茶会』へ〜ぇ!」
隼は本能的にステージの上を見上げた。マッドハッターの声に反応するように天井から何かが大量に降ってきた。
「隠れろ!」
薫が叫ぶと同時に座席の裏に隠れた。座席に容赦なく突き刺さるクナイの嵐。座席はあっという間に黒く染まってしまう。
胸の鼓動が早まった。頬を一筋を汗が伝う。
「ウチの花形、三月ウサギからの軽〜い挨拶だ〜。歓迎の証に受け取れよ〜ぉ?」
「要るかよこんな歓迎!!」
降り注ぐクナイは雨の如く、座席を穿つ威力は槍の如く。隼は頭上を飛び交う凶器から、薫を庇うように頭を下げさせた。
受けたことの無い洗礼は、二人に激しく襲いかかる。マッドハッターの狂った笑い声が聞こえた。
これをどうやって切り抜けようか──
「どこから降ってんの?」
隼が必死に考えていると、薫が早口で聞いた。
ちら見さえ出来ない状況で薫は何を言っているのか。隼は呆れ気味にため息をついたが、薫は隼に目だけを動かして言った。
「お前見てたろ」
クナイが降り注ぐ直前。ほんの一瞬だったが、確かに隼はクナイが飛んでくる方向を見ていた。あの一瞬の観察力に驚き、隼は冷静になった。
下を向いて一切こちらを見ない薫。ポケットに手を突っ込んだまま動かない。でも、自信があるようだった。
「······綱渡り用のロープの上だ。丁度ド真ん中に立ってた。でも人数までは······」
所詮は一瞬見えただけの事だ。自信はないが薫は「何人でも関係ねぇな」とガムを取り出した。
「そんで、作戦どーすっかな。オレ的にはD-2の『ゆで卵をレンジでチン』だけど」
「バカ言え、それだと薫が危な過ぎる。A-5の『台所戦争はフライパンの勝ち』だろ」
「そりゃお前にしか出来ねぇよ。オレを丁重に扱え、デリケートなんだぞ」
「じゃあ最善策は······?」
高鳴る鼓動。
力が湧き出る体。
違う方向を見ていても分かる上がったままの口角。
恐怖からの逃避反応か? いや──
「「B-3『ヒグマのマーチングバンド』だよな」」
元・不良の
薫がガムを噛みながら、壁際に置かれていた鉄パイプ目掛けて突進した。当然、それをクナイが追いかける。薫は鉄パイプを掴むと、壁を蹴って自ら体を宙に放り投げた。
格好の餌食、と言わんばかりに飛んでくるクナイを全て鉄パイプで叩き落とした。くるりと体を捻って座席の上に着地した。
「よぉ〜く見えるぜ。──お前だな?」
薫がクナイを叩き落としたことで三月ウサギの動きが止まった。マッドハッターも口笛を吹き、乾いた拍手を薫に送った。サーカス全体の明かりがついて、二人がよく見えるようになった。
「すげ〜ぇ!! 三月ウサギの攻撃をバッチリ返した奴は初めて見た〜!! だってみ〜んな、避ける前に死んじまうからさ〜ぁ!!」
三月ウサギは再びクナイを投げ始めた。
尽きないクナイの量にストックの異常さを感じたが、奴がいくら攻撃を重ねても、もう通用しない。薫がガムを膨らませた。
(残念だったな。相手が薫で)
「半径二メートル」
薫は腕を前に伸ばした。宣言された領域に侵入した全てのクナイはたちまち
「悪ぃなぁ」
薫は跳躍した。
力強く体を空へ投げ出し、歯を見せて不気味な笑みを浮かべた。足首に炎の花を咲かせて一気に加速した。
「ロケット発射‼」とか何とか、変なことを叫びながら三月ウサギまで一直線に飛んでいく。
先を越されたのは癪だったが、お陰で良い相手と
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