第114話 後方部隊制圧

 聖教国側での帝国軍後方部隊の制圧は、予想通り然程苦労もなく終了した。


『帝国軍の皆さん。武装を解除し投降するのであれば、すぐにでもデーモンアキオ様の呪いを解いてさしあげましょう!』


 聖教国軍の指揮官がそう呼びかけると、ほとんど全員が抵抗することなく武装を解除し、投降の意思を示した。下剤効果恐るべしだ。

 抵抗した兵士も数名はいたが、下痢のせいで力が出なかったようで、比較的簡単に拘束することができたようだ。


 投降した帝国兵達には、呪いの除去と称し止瀉ししゃ薬を配布し、体調の復調してきた者から順に捕虜収容施設に連行した。

 反抗した者はそれなりの扱いで、薬もお預けの上、粗末な収容所行き確定です。

 約5万人も収容するのだから、反抗しない人達にはそれなりに好待遇をしなければならないよね。


 というわけで聖教国側の後方部隊は、昼過ぎにはおおよその片が付いたのだ。

 あとは本体を叩くのみとなった。


 問題は魔大陸側である。

 今の所魔大陸側の帝国軍には仕込みは何もしていないので、元気いっぱいのままだ。

 先発で2万以上の兵は進軍したが、まだ後方部隊には数千名の兵は残っている。追って出発する兵站部隊も六百名程度と考えられる。


 とにかく食料、支援物資を断つためにも、この場所で後方部隊を全員捕獲することが理想なのだ。


「さて後輩山本君、そっちの状況はどうだ?」

「うすっ、今ドローン部隊が麻酔銃で交戦中っす。魔族の皆さんもサンダーランスで参入してるっすけど、まだ半数以上が抵抗してるっす。けれども味方、敵双方に死人はまだ出ていないっす」


 後輩山本君は、意外と激しい帝国軍の抵抗があり苦戦中だと報告した。

 それでも半数は捕虜化したのだから順調といえるかもしれない。死者も出していないようだし、まずまずか……。


 ドローン部隊は半数の250人を投入している。一度の出撃で15発の麻酔弾を撃てる非殺傷武器を装備している。炭酸ガスで麻酔弾を発射し、敵を眠らせる作戦だ。

 バイトの皆さんはドローンをジョイスティックで操作し、真ん中の照準に敵を捕捉して麻酔弾を撃ち込む。狙撃距離は最大で50m前後、距離を詰めればそれなりに命中率は上がるが、その分撃墜される危険度も増える。それに鎧を着ている兵士はそれなりに狙撃が難しくなる。うまく鎧の隙間を狙い首など地肌の露出した部分に麻酔弾を撃ち込むことができれば、敵は数分後には昏倒してしまうが、その隙間を狙うにはかなり近づかなければ厳しいものがあるのだ。


 それと弾数が少ないのもそうだが、ドローン自体はバッテリー駆動で長時間の飛行ができない。弾を打ち終わるか、バッテリーの残量が無くなる前に一度発進基地に戻り麻酔弾と炭酸ガスを補充し、バッテリーの交換をしなければならない。

 なのでピストン作業で攻撃を行うしかないのだ。


 発進基地は近場にある。それぞれ担当の兵士がアイテムバッグを持っているので、移動もお手のものである。なるべく安全な場所で移動距離も少ないように配備している。ドローンオペへの指示系統はこちら側から逐一行っているので、安全に、迅速に補給ができるようにもなっているのだ。


 そして魔族の兵士が持つサンダーランスとは、たんにスタンガンを槍の先に取り付けたものだ。

 敵の体に触れると電撃をお見舞いできる仕組みになっている。

 金属製の鎧を着ている兵士たちには有利な武器だ。最悪相手の剣に電撃を見舞っても帝国軍の剣は、柄まで金属製のものが多いらしいので有効である。


「うーん、それでも少し膠着しているようだな……」

「そうっすね、鎧を着ていない敵はほぼ片付いたっすけど、鎧兵が厄介っす」

「そうみたいだな……」


 魔族の兵も数百人は投入しているが、その大半は捕縛班である。

 倒れた敵を縛り上げ、捕虜収容所に運び入れるのだ。


「ヘイ、ヤマモトクン! 自軍損耗率10%ですよ。うかうかしていると死人がでますよ? ここは早期制圧を目指し、例の作戦を敢行しなさーい!」

「う、うす!」


 情報統括を任されているアイリーンさんが、戦況を冷静に分析して山本君に指示を出した。戦闘開始時は空飛ぶ奇妙な敵に慄いていた帝国軍も、次第にドローンの動きを冷静に観察できるようになってきたようだ。およそ20機ものドローンが既に撃墜されていると報告された。

 このまま戦闘が長引けば長引くほど、魔族側の死者が出る確率も大きくなってくる。

 こちらは無血の戦争終結を目指しているのだが、帝国側はそうではない。こちらを本気で殺しに来ているのだ。

 今の所ドローン部隊がメインなので、生身の魔族兵は前線にそんなに出張っているわけではない。麻酔で昏倒した帝国兵を運搬している者が大半だ。


「ドローン各機に次ぐっす! 順次一度補給場所に戻り、催涙弾を装備して敵陣に投射すべしっす! 催涙ガスが発生するっすから魔族兵は、ガスマスクを装着、ガスで苦しむ帝国兵にスタンランスで対応するべしっす!」


 山本君が各班に作戦変更を告げる。すると即座にその作戦を本部ドローン指揮者がオペレーターに伝達した。うちの社員たちも大忙しである。

 帝国軍を催涙ガスで悶え苦しませたところを、スタンガンで昏倒させる作戦のようだ。

 魔族兵にはガスマスクを渡してあるので、催涙ガスが蔓延している戦地でも行動が可能になっているのだ。


「戦況偵察班から風向きの情報を集めて、なるべく風上から催涙弾を投射した方がいいぞ」

「ぅす! その辺りは訓練でもしていたので大丈夫っす閣下!」

「そうか……てか、閣下言うなよ……まあいいか……」


 戦闘中なので、もう閣下呼びを受け入れることにした。こういった状況下で、閣下と呼ばれるのは何気に偉くなった感じがして優越感が満たされるようだ。まあそんなことは今はどうでもいい。戦闘に集中すべきだろう。

 ドローン部隊も色々な状況を想定した訓練をしているので、その辺りのデーターも収集しており、指揮者もそれを考慮した作戦を伝えるようにしてあるそうだ。

 なんとも頼もしいものだ。俺がデーモンアキオ役を練習している間に、ずいぶんと訓練されていたようだ。


 ほどなくして催涙弾が戦場に投下された。

 もんもんと立ち込める催涙ガスに、帝国兵は涙を流し、鼻水を垂らしながら咽び、悶え苦しみだす。

 戦況は一気にこちらへと傾いた。


「GO、GO、GO、GO! Move、Move、Move! 一気に殲滅です!」


 その状況をアイリーンさんは好機とみて叫んだ。まるで指揮官にでもなったようだった。国防総省で何をしているのかは不明だが、戦闘に関して形勢有利と見るや、一気に片を付けようとするのは、戦争に慣れている証拠かもしれない。

 それを受け後輩山本君も即座に魔族兵の隊長へと指示を出す。

 サンダーランスを手にした魔族兵数百人が、ガスマスクを装着して一気に戦場へとなだれ込んでいった。


 そこから鎮圧までは早かった。

 帝国軍の主力部隊ではなかったからとはいえ、未知なるガスで苦しむ兵は、魔族軍の兵達に簡単に拘束されたのだった。


『帝国軍後方部隊全員確保、死亡者0、これより捕虜収容所へ移送します』

「了解っす。では、捕虜を収容した後次の作戦に移行するっすよ。全員順次B地点に集結するようにっす」


 後輩山本君は、次の作戦を伝えて一時休憩に入る。次の作戦まで数時間あるので、少し仮眠でも取らせようと思う。


 敵味方問わず、死者は出ていないようだ。多少怪我をした者はいるようだが、命に係るような大怪我を負っているような者もいないということで一頻り安堵した。今の所大家さんの目標は達成されている。このまま死者が出ないように戦争を終わらせられればいいね。



 こうして聖教国側と魔大陸側の後方部隊の制圧は完了したのだった。

 どちらにしても支援物資を絶たれた帝国軍の形勢は、一気に不利に傾いた。このまま長期戦に持ち込めば、兵糧攻めもできる状況でもある。大部隊に必要な食料はかなりの量になるので、数日間どこかで足止めさえさせれば勝つことができるかもしれない。しかしここは短期決戦を計画しているのだ。戦争を冗長に長引かせることはしない。




 さて、この先は主力部隊の捕獲だ。



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