第99話 調査開始
【海外の土産話】
エンデルは、魔法の鞄を仕上げながらピノーザに土産話をする。
ピノーザは魔法陣をハサミで切りながら耳を傾けていた。
「ピノーザ。飛行機というものは空を飛ぶのです!」
「飛行というくらいだから、そうなんだろうね」
「ものすごく大きいのですよ? 人がたくさん乗るのです」
「へーっ、電車とかみたいに?」
「そうなのです。まさに電車が空を飛んでいるような感じなのです!」
「ええ~っ、まさか、そんなことないよ。あんな大きなものが空を飛ぶかよー」
実際に本物の飛行機を見ていないピノーザは、まったく信じない。
電車のようにたくさんの人を乗せたモノが、空を飛ぶなど、話半分も信じられないのだろう。もっとも電車ですら夢のような乗り物なのだから、乗り物が空を飛ぶなど眉唾でしかないのだ。
「だいたい師匠が飛べるのですら驚くのに、そんな乗り物が飛ぶなんて、どんだけ魔力が必要なのさ。というよりも、こっちの世界は魔力ないんだよ」
「そうなのです、だから恐ろしかったのです。あんなものを空に飛ばすという技術とやら、まったく信じられません……」
こちらの世界の人間が魔法を信じられないように、エンデル達もこの世界の技術というものは、未知なる力として捉えられるのだ。
「ま、でも、それだけ凄い世界なんだろうね。だからヒナたん師匠も、アキオ兄ちゃんも戦争に手を貸してくれるんだろうけどね」
「そうですね、亜空間を介してこんなにも色々な事ができるなんて、考えも及ばなかったのです」
たった一つのマジックバックから始まった異世界間の繋がりが、ここまで有用に使えたことに感謝するしかない。
もしマジックバックを持ってきていなかったら、今頃は何も知らずに異世界が戦火に巻き込まれ、いずれ帰れたとしてもその時には、聖教国がもう無くなっているかもしれないのだ。
それを考えると、とても恐ろしくなる。
「でも、あめりかという国はとても面白い国だったのです」
「えっ? 急に話し変えるなよ!」
「この日本とは違って、私達のような外見の人達が多かったのです」
「そうなの? この世界にも色々な人種がいるんだね」
「それにステーキというお肉も美味しかったのです!」
「あ、ああ、やっぱり食べ物の話かよ……」
師匠と弟子は、そんな取り留めのない会話をしながら手を動かすのだった。
◇
翌日、俺はオペレーションルームで、送られてくる映像を監視している。
差し当たって作戦を立てるのに、最低限なければならないのが地図。
敵がどう攻めて来るか以前に、地形を知らなければ、ただ悪戯に敵の聖教国内への侵入を許してしまうことになる。
ここは出来るだけ聖教国が優位になるように作戦を立てねばならない。
というのが大家さんの主張だった。
大家さんの理想通り、無血で戦争を終結させるというというのならば、尚更作戦は綿密なものが要求されるだろう。
ずさんな作戦で死者など出してしまったら、それこそ俺達の責任なのだ。それだけはしたくない。
というわけで無人偵察機リーパーが離陸の時を迎えている。
「エンジン始動、各種計器オールグリーン、いつでも出せます」
別室に設置した遠隔操作ユニットに座る自衛隊から派遣されて来たパイロットが、いつでも離陸できると言った。
なんかカッコイイ、俺も子供の頃パイロットになりたかったんだよね。でも、高いところ苦手だから自然とそんな夢もなくなってしまった。そして社畜人生が始まったのだ。
ううう、なんか暗い過去を思い出したら泣けてくるよ……。
「うむ、それでは始めてくれたまえ」
「了解、リーパー発進します」
大家さんがGOを出すと、パイロットは操縦桿を握り無人偵察機を発進させる。
「プノ、周りに人はいないな?」
『ハイなの! でも、ものすごい音と風なのー!』
俺は向こうの世界のプノに安全確認をすると、全員退避したと即座に返事が来た。
しかし近くで見ているらしく、エンジンとプロペラが出す音が物凄く、声を張り上げている。
エンジン音が増すとともに、徐々に動き出す機体。プノの端末から送られてくる映像でもそれは確認できる。
みるみるスピードを上げ、滑走路を疾走し、そして空へと舞い上がる。
「離陸しました」
「うむ、では先程伝えた通り、フライトテストを兼ねて、情報の収集もしてくれ」
「了解しました」
パイロットとは別のシートに座るセンサー員も、モニターを睨みミッションに当たる。
無人偵察機はみるみると高度を上げ、異世界の空を気持ち良さそうに飛ぶのだった。
「ほお~すごいですね。まるで本物を飛ばしているような操作性ですね」
「これがプログラムだなんてほんとに信じられないです。少しファンタジックな恰好はともかく、整備員とかも普通の人間みたいに動いていますしね」
「うむ、そうだろうそうだろう、なるべく本物に近いように作り上げたからな。それに中のNPCは自立AIを持たせてあるので、自分の判断で動く。まるで本物のようだろ、ハハハハ」
二人の自衛隊員は、本物の機体を操縦しているようだと絶賛し、プノ達の事も実際に生きた人間ようだとまで言う。
大家さんは、大きな胸を張りうんうんと頷き、それは
いや全てが本物なんですけどね、一応……。
自衛隊員二人にも異世界の事は話していない。
これは今現在開発中のゲームで、その中で無人偵察機を使い、色々なミッションをするテストをして欲しいとだけ伝えているのだ。
操作は本物と同じで、墜落や事故を起こせば機体はもう使えなくなることも含めて、現実で操縦するのと同じことを要求している。
予備機を1機は用意しているが、そうポンポンゲームのように壊されるわけにはいかないのだ。なんせ実際に本物が飛んでいるのだから。
事故を起こしても無人機なので死にはしないが、万が一向こうの人達が巻き込まれて死んでしまうかもしれないからね。それだけはやめてもらいたい。
というわけで無人偵察機は無事飛行することに成功した。
先ずは地図作成のために、向こうの世界を上空から撮影、地形情報などの収集をしてもらうミッションを急務としている。その映像やデータを元に異世界の地図を起こし、早期作戦の立案に繋げたいと考えているのだ。
さて、電波問題は一応解決した。
昨日大家さんから提案があった後、すぐにアイリーンさんと連絡を取り、通信系の改造ができないか製造会社に問い合わせて貰ったのだ。
何のことはない、簡単に出来ることが分かったので、こちらで急遽その作業に取り掛かったのだ。
お陰で俺は徹夜明けだけどね……。
方法としては、無線ではなく有線で無人機を操作するということだ。
魔法の鞄があるのだから、無線ルーターを向こうの世界に送ったように、データの送受信を魔法の鞄を介して、操作ユニットと偵察機を直接ケーブル接続し、操作してしまえば良いだけだ。
これで電波が届かない場所でも自由に飛び回ることができる。数日もあればおおまかなデータは揃い、地図の作成も出来ることだろう。
ここで自衛隊さんにゲームと勘違いしてもらう作戦もちゃんと考えている。
燃料補給をしなくとも長時間飛行できるシステムを細工しているのだ。こちらの世界にタンクローリーを常駐させ、燃料が少なくなってきたら飛びながらこちらから補給出来るようにしている。魔法の鞄を介してホースを燃料タンクに繋いでおけば、いつでも燃料補給は可能だからね。
態々燃料補給のために滑走路に戻っていては、時間のロスにもなるからね。
とにかく今は、向こうの世界の情報を収集することを急務としているのだ。
無人偵察機リーパーから送られてくる映像や写真、それに様々なデータは、即座にホストコンピューターに蓄積され、分析作業に取り掛かる。
うちの会社からも2名のプログラマーがこの異世界サーバーがあるプレハブに常駐し、その情報の分析や地図作成の仕事に就いてもらっているのだ。
なんとか情報分析プログラムも間に合ったようで、順調にゆきそうな気配はある。ただぶっつけ本番でもある為、デバックもしながら仕事を進めて貰っている状況ではあるが。
『ふぅ~ほんとうに飛んで行ってしまったなの……』
「だから何度も言っているだろ? 飛行機は飛ぶものだって」
プノが空を見上げ、小さくなってゆく偵察機を呆然と見つめながらそう言った。
俺としても飛行機は飛ぶものだと固定観念があるから普通だと思うだけで、何も知らなかったらプノと同じような感想しか出ないと思うけど。
「それじゃあ後は偵察機の事はこちらに任せておけ。何かあったらまた連絡するから、その時までは別のことをしてくれ」
『分かったなの』
「それで、魔大陸の方はどうなってるんだ?」
『はいなの、昨日できたマジックバックも渡しているので、順次アンテナを設置している頃なの』
魔大陸の方も順調に推移しているようだ。
昨日残りの魔法陣も作っておいたので、エンデルとピノで完成させたものを早速プノに送ったのだろう。少しでも時間の短縮にったようだ。
これで魔大陸の地図もあれば作戦もすぐに立案できることだろう。
こうして異世界は本格的に動き始めるのだった。
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