第53話 実験開始

 回転寿司を出た俺達は、スーパーに寄り買い物をしてアパートへと戻る。


 テイクアウトの寿司は、ピノに大家さんのところへ持って行ってもらった。そして風呂に順番に入り、今は俺の部屋でアイスを食べながら皆なでくつろいでいる。


「よーし、それじゃあ実験を始めるぞ。エンデルはアイテムバッグとやらの準備を」

「はい! 了解ですアキオさん」

「向こうのプノにはちゃんと俺の言った通りの内容で手紙を書いて入れておいたか?」

「はい、抜かりはないのです!」


 向こうの世界のピノの妹のプノーザには、さきほどテイクアウトしてきた寿司の折り詰めとアイスを既にアイテムバッグに放り込んでいる。寿司はナマモノだし、アイスも溶けてしまうので速やかに届けた方が良いと思ったからだ。

 それと共に、これから行う実験に関しての手紙も入れておいたのだ。

 余談だが、プノからこちらの世界の食べ物の注文が届いていたらしい。美味しいものがあったら必ず入れるようにと。その中でもアイスは毎日入れろと強く書いてあったそうな。異世界人はアイスがお気に入りのようだ。


「よし、ではまずこれを先に入れなさい。これを向こうで受け取ったようなら次に移行しよう」

「はい! 入れますね」

「アキオ兄ちゃん、これはどういった実験なんだ?」

「その黒い鏡のようなものが何か役にたつのですか?」


 エンデルがアイテムバッグとやらにブツを入れるのをじっと見ていたピノと姫さんが首を捻りながら訊いてくる。


「まあ黙って見ていなさい。実験が成功すれば、きっと君達の驚く事が起こるだろう」


 ふーん、と、どこか軽く流されてしまった感はあるが、これが成功したらマジで驚くこと必至だろうと思う。

 今日アキバで入手してきた中古のタブレット端末を、向こうの世界に送った。設定はもう済ませてある。

 使い方を説明するのに難儀しそうだが、これが使えれば物凄く便利、かつ有用な活用方法があるのではないかと考えている。

 それにこれから実験しようとしている事が、もしも可能であれば、それこそこちらとあちらの世界の距離がグンと縮まる可能性があるのだ。


「アキオさん、プノーザが受け取ったようなのです!」

「そうか、では次行くぞ!」

「はい!」



 俺は次のモノを準備するのだった。



 ◇



 【プノの困惑】


 異世界にいる師匠から何か奇妙な食べ物とアイスが送られて来た。


「な、なんなのなの? ……あいすは昨日と違う種類なの、でも、この生のお魚のようなものが乗った食べ物は、いったい……なの?」


 色とりどりの色彩で目に映えるが、これが食べ物なのかどうかが疑問である。とりあえず初めて見る奇妙な食べ物は置いておき、溶けてしまう前にアイスを食べながら一緒に入っていた師匠の手紙を読むプノだった。


「う~ん、相変わらずちべたくて美味しいの~。でなになになの?」


 『この食べ物は『すし』という、とても美味しい食べ物。『ごはん』というものが少しすっぱいけれども、腐っている訳じゃないよ。透明な袋に入った『しょうゆ』というものに付けて食べてね』と書いてある。


「すっぱい食べ物なの? そんな食べ物があるの? まさか本当に腐ってしまったから、とりあえずプノに食べさせるか……って魂胆なの? 上に載っているのは生のお魚みたいだし……お腹壊すかもなの……」


 どこまでも疑り深いプノだった。


 アイスを食べながら続きを読むと、異世界の道具を少し実験するので、この後協力するようにと書かれていた。

 まずは『たぶれっと』というものが中に入れられるらしいので、それを受け取りなさいという事だ。


「たぶれっと……それはいったい何なの? とりあえずはアイス美味しいの~」


 アイスの美味しさに、頬を押さえながら時折アイテムバッグの中を確認するプノ。

 アイスも食べ終わり暫くすると、アイテムバッグの中に何か目新しいものが入っていた。


「……これがそうなの?」


 その目新しいものを引き出す。

 四角い黒い鏡のようなもの。鏡の裏面は銀色に輝く金属のような筐体。そこには木の実が一口齧られたような模様が記されていた。


「これで何ができるの? 自分の顔を見て楽しみなさいということなの? でも凄い品物なの……こんなのを人が作れるなんて、異世界はいったいどういう世界なの?」


 見たこともない優れた未知の技術で作られたであろう機器。黒い鏡面に自分の顔を映しその技術の高さに魅入られてしまうプノだった。

 そしてはたと次の指令を思い出す。


「次は何なの? ええと、紐が付いた四角い箱のような『むせんる~た』というもの? これもまったく意味が分からないの……」


 アイテムバッグを弄ると、また新たに理解できないものが入っていた。

 プノはその箱のようなものを引き出し、手紙に書いてあった通り、紐をつんつんと引き、ゆっくりと引っ張り出す。


「あっ!」


 するとその紐に手ごたえを感じた。

 向こう側で誰かが引っ張っているような。そんな感覚が手に伝わって来る。そして再度確認の意味を込めて、つんつん、とプノはもう一度紐を引くのだった。


「よかったの……」


 異世界にいる誰かと紐を介して伝わったことに、一人ボッチで過ごすプノは、どことなく嬉しさが込み上げてくるのだった。姿は見えないけれども、確かに存在しているのだ。


「でもこれはまた何なの? 何かチカチカと光っているの……」


 四角い箱に光る数個の光点。その光点がチカチカと点滅するのを見て、またもや異世界の技術にほれぼれと見入ってしまう。

 中はどうなっているのだろう? どんな素材を使っているのだろう? と、探求心が疼き始める。

 が、その時、


「──ひゃあああっ! な、なんなの‼」


 突然黒い鏡面に光が灯り、なにか図形のようなもが映し出され、それと共に奇妙な音が鳴り響いたのだ。


「な、なんなのなの?」


 突然光り出した黒い鏡面は、不可解な音を鳴らしている。

 プノはあっけにとられ、手紙の指示を一瞬忘れてしまった。


「た、確かこの模様を指で触れなさいと書いていたなの……」


 エンデルから来た手紙に書いてあった模様と同じ模様を見つけ、恐る恐るタップする。

 すると、


『『『おおおおおおおおおーっ!!』』』

「──わあっ!!」


 そこには異世界に行った3人と、見知らぬ男性がこちらを見て喝采を上げている姿が映し出されたのだった。


「ぴ、ピノお姉ちゃん、師匠、姫様……」


 まさか三人の元気な姿が映し出されるとは思わなかったプノ。

 最初こそ驚きはしたが、その後頬を何かが伝う。



 プノは三人の元気そうな顔を見て、自然と涙を零すのだった。

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