第18話 年齢は?
「というかエンデル。君はいったい何歳なんだ?」
新妻宣言された俺は、エンデルがいったい何歳なのか気になったので訊いてみた。
見た目17、8歳だけど、実は15歳だとかいったら洒落にもならない。向こうのの世界では知らんが、この日本には淫行条例というものがあるのだ。そんな法律に抵触する行為は御免である。『自称ブラック企業に勤める社畜
とはいっても異世界人だからこちらの法律は適用されないかな? いやいや、そうじゃないだろ! 淫行は淫行だ! って、もう妻になるの確定か?
「はい! 私の年齢は24歳になります!」
「──ぶっ‼」
マジかよ! 俺と二つしか違わないの? いやいや、どれだけ多く見積もっても絶対に二十歳以下だろっ! どんだけ童顔なの?
「ま、マジで?」
「はい、本当の事ですが?」
「あいや、どう見ても十七、八歳が良いところかなーって思うのだが……」
「まあアキオさん! 嬉しいこと言ってくれますね。そんなに若く見られるなんて初めての事ですよ!」
「……」
えええええ~っ、てことは、向こうの世界では童顔ばっかりなのか?
「ち、ちなみにエンデル。俺は何歳に見える?」
俺は御年26歳。最近髪の毛は薄くなり始めているが、まだまだ25歳以下で通ると思う。
一般的に日本人は若く見られることからいえば、外国人からは童顔の部類になるだろう。異世界人も外国人の括りで間違いない。
「ええとですね、30歳ちょっとぐらいですかね?」
「──ぶうぅぅぅぅ~っ‼」
マジかよ、そんなに年食った顔になったか? あいや、この社畜人生で、心も体も擦り切れてしまい、髪の毛もシャンプーするたびにごっそりと抜け始めた。シャワーで頭を濡らすと、そのボリュームが学生時代とは雲泥の差である。
マジか……俺の人生折り返し地点じゃねーか……。
「そ、そんな歳に見えるか……」
「どうしたのですか? そんなに落ち込んでしまって……?」
「あいや、そこまでおっさんに見えるのかと思ってな……」
「いいえ、まだまだ若者ですよアキオさん! じゅうぶん私の夫として申し分ない年齢です!」
「そ、そうか? 俺は26歳だぞ? そんな歳食ったように見えるなんて落ち込むよなぁ……」
「えええええっ! 私と二つしか違わないのですか? そ、それは老けていらっしゃる……」
「老けてる言うな‼」
というか30でもまだ若いといったか? 若しかしたら寿命がかなり長い世界なのか?
「なあエンデル、君の世界では寿命はどれくらいなんだ?」
「寿命ですか? そうですね普通であれば100歳前後、長生きすると120歳ぐらいですね。超長生きで130歳でしょうか?」
おお、かなり長生きなんだな。
こっちの世界では、今普通なら80歳ぐらいか? 長生きで100歳 超長生きなら108歳とかだよね。
ん? でも待てよ。エンデルのこの見た目といい、30歳がまだ若いという……もしかして、
「エンデル、一日の長さはこの世界と向こうどちらが長い?」
「そうですね、まだ丸々二日しかいませんが、たぶん同じくらいだと思いますよ?」
そうか、俺の勘違いか。一日の長さが向こうが短いのならそうなってもおかしくないと思ったのだが、穿ち過ぎか……あ、一日が同じだったら、
「もしかしたら、向こうの世界で1歳、歳を取るのに何日必要だ?」
「一年ですか?」
あ、そうか、翻訳されるから一年は一年でいいのか。
「おう、一年は何日だ?」
「はい、300日ですね」
「おおっ! やっぱりか!!」
それなら納得がいく。
普通の寿命が100歳ならこっちでは80歳くらいだろ? 100歳が長生きのこっちで、向こうなら120ぐらいだ!
ならエンデルはどうだ? 本人曰く24歳。こっちの年齢で換算すると、えーと、19歳くらいだ! ビンゴじゃねーか!
「ふふふっ、エンデルさん、君のこちらの世界での年齢が判明したよ」
「ええっ? こちらの年齢がですか? 私の住んでいた世界と違うのですか?」
「ああそうだ。君のこの世界での年齢はずばり19歳だ!!」
「おおおおっ! 若返りました!!」
若返らねえよ! 換算日数が違うだけだ!
「いや、若くはならないから」
「そうなのですか?」
「ああ、ちなみに俺がこの世界で26歳だから、向こうの世界では31歳って所だ。こっちの世界は1年が365日あるんだ」
「おお~なるほど。一年の日数が違うのですね」
「まあそういう事だ」
ギリギリ淫行は免れるな……って、そうじゃないから!
まあ年齢の件は決着がついた。一頻り安心する俺。なぜか知らないが安心する。
「で、向こうの世界は何歳から成人と認められるんだ?」
「そうですね、15歳からですね。でもまだ幼い頃からみな仕事はしていますよ。そうですね10歳ぐらいからは一人前として働き手の数に数えられます」
「なるほど、随分幼い頃から働くんだな」
こちらで言えば8、9歳ぐらいからバリバリの労働者か。世知辛いな。
「そうですかね? それが当然のようになっていますけど?」
「学校とかはないのか?」
「がつこう、ですか? 教育機関の事ですかね?」
「そうだな、幼い子らが教育を受ける場所だな」
「うーん、貴族や富豪の所にはそういった教育機関はあるとは聞いていますが、民草にはそんな贅沢な場所で教育を受けることはありません。私のように誰かに師事を受けるのが一般的ですね」
「なるほど、という事は読み書きとかは、個人的に誰かに教わるのが常識なのか」
「いいえ、読み書きなど民草でできる人はあまりいません。商家や特定の家なら家族で教え合いますが、その他は働き手であれば、読み書きなどできなくてもいいのです」
なんとも遅れた社会形態なんだな。
寺子屋のようなもの作る人もいないのか……これは日本の江戸時代より悪いな……。
ちなみに江戸の識字率は、当時の世界の首都で世界最高レベルの識字率だったらしい。日本人って凄い!
「という事はエンデル。君も読み書きができないとか?」
「な、なにを言うのですかバカにしないでください! いくらアキオさんでも怒りますよ? 私は『大賢者』ですよ? 『賢者』より凄いのですよ? 賢者とは何故に賢者と呼ばれるかお分かりになりますか?」
「賢者ね……賢(かしこ)い者と書いて賢者、だな」
「そうなのです、賢いのです! それも大が付くほど賢いのですよ‼」
えっへん! と無い胸を張るエンデル。
ていうか、賢かったらもっと常識的に裸を恥ずかしがれよ! そう言ってあげたい。
まあこちらの常識とだいぶ違うのだからその辺りは大目に見るが……。
「で、読み書きは出来るんだな?」
「も、勿論ですとも! なんなら書いて差し上げましょうか?」
「いやいい、書かれても俺向こうの文字読めないから」
「そ、そうですか、それは残念……」
なるほどね、字を書けるという事は、それなりにエリートみたいなものなんだろうな。自慢したくなるのも頷ける。
という事で、向こうの世界の事をちまちまと聴取するのだった。
◇
【大賢者エンデル捜索隊 頑張る】
「うーん、そんなにおかしな所はないねぇ~」
ピノが遠目に召喚魔法陣を確認していくが、これといっておかしな箇所を見つけられない。
魔導書を片手にペラペラとページをめくりながら検証する姿は、小さな大賢者そのものだ。
こう見えてもピノは優秀なのである。薬の調合も得意だが、魔法陣の構築も師匠であるエンデルから師事を受け、それなりの知識は持っている。
ただ今回の魔法陣は、かなり大規模な召喚魔法陣なので、ピノにこれと同じものを構築しろと言っても、そう簡単には構築できない代物なのである。
なのでその粗は簡単に見つけることはできないのだ。
「ふむ~ぅ、やっぱり師匠は凄いんだねぇ~。普段があれじゃなかったら、もっと崇めてもいいんだけどねぇ~」
普段が普段なので、師匠の株は、弟子にとってはダダ下がりなのである。
「プノ、そっちはどうだい?」
「うん、もう少しで指向性が定まりそうなの」
「そうかい、師匠の魔力の残滓がこれだけあれば、特定も可能かもしれないね」
「そうなの、でも空間が安定する前に特定しなきゃ、分からなくなりそうだから、早くしなきゃなの」
プノは師匠の魔力の残滓から、今師匠がいる場所を特定しようと魔道具の調整に必死である。
魔道具の成作に関しては、師匠のエンデルでさえ褒め称えるほどの腕を持つプノ。探求心旺盛で、魔道具にかけては妥協を許さない性格である。その性格の甲斐あって、作る魔道具は一級品なのである。プノも姉のピノに負けず劣らず優秀なのだ。まだ幼いとはいえ、その実力は聖教国でも5本の指に入るとまで言われているのである。
そんな二人にかかれば、エンデルの居場所も割り出せるかもしれない。
エル姫とハンプ宰相は、その作業をただ静かに見つめるのだった。
大賢者エンデル捜索隊。その活躍がこの世界を救うのか……。
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