自転車の群れ
ドアを開けると自転車が置いてあった。おじさんが乗っている自転車が置いてあった。四角いキックスタンドで固定された車体、左右のペダルにはそれぞれおじさんの足が乗せられていた。庭にも置いてあった。緑色の芝生の上におじさんが乗っている自転車が置いてあった。3Dみたいだった。窓枠にも置いてあった。とても小さなおじさんが乗っている自転車が置いてあった。チリンチリンと音がして部屋の方に戻ると、無数の点のようなものが床の上を駆け回っている。カマキリの幼虫のようだ。恐る恐るしゃがんで見るとそれは小さな自転車のようだった。ガリバー旅行記の小人国にきたのかな。蟻くらいの大きさの自転車の群れ。私の部屋は自転車の群れに襲われているようだ。どうして私がターゲットにされたのだろう。どうしてですか?私が尋ねても自転車はただ走り続けるだけだ。どこかに自転車の卵があったのかもしれない。見落としていたとしたら私の責任か。そう、仕方ない。私の責任だ。
シャーシャーシャーシャーシャー
シャーシャーシャーシャーシャー
でも生活したい。どうすればいいかな。流石にこのままこの部屋で生活するのは厳しい。歩くたびにこの人たち踏み潰してしまいそうだし。蟻みたいだけど人間の形をしているから、流石に踏み潰しづらいよね。どうしよう。業者とか呼べばいいのかな。後ろを見ると、まだでかい自転車おじさんが固まっている。こいつがボスか?こいつを倒せば全員いなくなるみたいなやつか?しかしいきなり殴り掛かるわけにもいかないし、話しかけるのもなんか怖い。怖い。得体が知れない。そんなことを考えながら、部屋の中を走る自転車たちを眺める。
シャーシャーシャーシャーシャー
シャーシャーシャーシャーシャー
なんか、川みたいだな。川の音みたいだ。
シャーシャーシャーシャーシャー
シャーシャーシャーシャーシャー
そういえば新宿に来てから川を眺める時間がなかった。夜中に一人で川を眺めた懐かしい日々を思い出し、私は涙を流すのでした。
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