apple、apple、apple、apple、apple

 電車で英語の単語帳を読んでいる高校生がいたので「apple」と声をかけた。


「apple」


 高校生は反応しない。こっちの方を見もせず単語帳を読みまくっている。気づいてないのかな?


「apple、apple、apple、apple」


 高校生の方に首をにゅっと出し目を見つめながら言い続ける。


「apple、apple、apple、apple」


 ちらりとこちらを見るようなこともない。どういうこったい。


「car、car、car、car。」


 carに変えた。


「car、car、car、car。」


 反応がないな。


「apple、car、apple、car」


 なんで無視するんだよまじで。頭おかしいのか。最近の若者はこんななのか。


「car、car、car、car、car」


 プシュー


 次の駅に着いた。高校生は降りようとしているようだ。着いていこう。私は高校生に密着し、後ろから呟き続けた。


「apple、applep、apple、apple」


 高校生はやがて高校に到着し、教室へ入った。全くまだ気づかないのか。一体どういう神経してやがる。私は彼女の机の脇に立ち


「apple、applep、apple、apple」


 と呟き続けた。


 ガラガラー


 先生が入ってきた。あれは、あれは....佐々木先生。高校時代一番お世話になった佐々木先生だ!!まだ先生をやられていたなんて!!私は先生の前に走って行きつぶやいた。


「apple、applep、apple、apple」


「はい。号令。」


「起立!!」


「おはようございます。」


「はい、おはよう。」


 え、先生は俺のことなんてまったく気にとめず挨拶をした。まるでみていないかのように。これは流石におかしい....佐々木先生まで....。こんなこと今までなかった....。ぐぐっ.....。ああっ!!脳の中でトラックが迫ってくる!!死、死ぬーっ!!



 はぁっ....はぁっ......。そういえば今日の朝、母さん....泣いていた.....。


 気づくと走っていた。家に向かって、一心不乱に走っていた!!こんなに走ったのはいつぶりだろう。わからない。


 はぁっ.....はぁっ......はぁっ.....!!


 家に着くと、母さんが泣いていた。従兄弟もいる。みんな泣いていた。そして飾ってあるのは俺の写真....。そう遺影だ。その瞬間全てを思い出した。俺は昨日、トラックに轢かれて死んだのだ。ああ、母さんが目の前で泣いている。ああ....。俺はもうこの世の人間じゃないんだ.....。母さん。私は母さんを上から抱きしめた。でも、なんの感触もない。よし、さよならだ。体がどんどん透けていく。


「apple、apple、apple、apple。」


 最後の瞬間まで私はつぶやいていた。


 完

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