パン屋ミシェル

 蝋燭のような重苦しい空から雪が降ってきて、新しい季節の訪れに気づくような人が生きている。


 ミシェルのパン屋は繁盛していたし、街で愛されていた。店内は人々の笑顔に溢れ、みんなミシェルのパンが好きだった。彼女は毎朝6時に起きて、パンを焼き9時の開店に向け準備をした。小麦粉を捏ね、釜戸に投げ入れた。そんな毎日に満足していたし、一生このままでいたいと考えていた。そんなある日、異変が起こった。パンが一向に焼けなくなったのだ。釜戸に入れて火をつけてもどういうわけか小麦は固くならず捏ねた状態のままでてくるのだ。それはまるでミシェルの彼氏のEDのペニスのようであった。しかしミシェルはEDの彼氏のペニスも大好きであった。そのためミシェルは柔らかい小麦粉状態のパンもそのまま販売した。私の愛するEDのペニスのように皆も愛してくれるだろうと思ったのだ。パンは売れなかった。なぜならそれはパンではなかったから。小麦粉を捏ねたものだったから。ミシェルは腹が立った。客たちに詰め寄ることすらあった。


「お前ら、EDのペニスは嫌いか!!」


 このミシェルの変わりようは街ですぐに噂となった。ミシェルが客にEDのペニスについて質問するようになってしまったと。そして嫌いと答えた人々は次々に消息を絶っていた。街中に行方不明のポスターが貼られるようになった。夫が行方不明になってしまったジョナサンは言う。


「きっとあの女のせいよ。そうに違いない。いなくなった人々に共通しているのはミシェルにEDのペニスについて聞かれて嫌いと言ったことなのよ。警察は早くあの女を捜査するべきなのよ。」


 しかし警察は証拠もないのに捜査を開始することはできない。街は人々の悲しみで溢れた。これを見かねた市長のボブはミシェルのパン屋に行ってみることにした。私が街を守るんだという使命感で溢れる立派な市長であった。


 ガラガラといつものように扉を開く。並んでいるのはパンではない、小麦粉を捏ねたものだ。


「あら市長さん。EDのペニスは好き?」


「好きだ。」


 とボブは答えた。ミシェルの目をまっすぐ見つめて答えたのだ。


「ふふん」


 ミシェルは嬉しそうに笑った。ボブは粘土のような小麦粉を一つ購入し店を出た。


 その晩のことだった。ミシェルの彼氏のペニスは硬くなった。


 完

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