お賽先生

 パンパンパン


 お正月。神社。目の前にはお賽銭箱があるのである。お賽銭を投げるのである。


 からんから〜ん、からんから〜ん


 お賽銭を投げたのである。乾いた音がしたのである。


 パンパン 


 手を叩いてお祈りする。


「おい!!ちゃんと音を鳴らせ〜!!」


 ん、なんだか後ろから突然声がしました。なんだろう。なんだろう。振り向くと、お賽銭箱から二本にょきにょき人間みたいに足が生えたやつが走ってきています。


 ドタドタドタドタ


 二本の足で支えるには重そうです。端をぐらぐら揺らしながら走ってきます。ぐらぐら階段を上り、止まった。


「おい、乾いた音じゃなく生きた音を鳴らせ〜〜。」


 ん、私に言っているのか?と一瞬思ったが、どうやら違うようだ。賽銭箱に言っているみたいだ。お賽銭箱に説教するということは、お賽銭箱の先生、お賽先生なのだ。


「おい!!返事しろお!!」


 お賽先生はお賽銭箱に怒鳴り続けるが、お賽銭箱の反応はない。


「おい!!舐めてるのかあ!!教えてやったことは忘れたのかあ!!」


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 お賽先生は痺れを切らし、お賽銭箱にタックルし始めた。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 た、体罰だ。私は思った。た、体罰は良くない、体罰は。体罰はダメだ。


 ワナワナワナワナ


 あまりの恐怖に震える私。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 タックルを続けるお賽先生。止めようにも怖くて近づくことができない。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 おんぎゃあああああ!!おんぎゃあああああ!!


 これは、赤ちゃんの泣き声。後ろに並んでいる行列の中に赤ちゃんがいたのだろう。赤ちゃんも、体罰は怖いのだ。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 相変わらずタックルし続けるお賽先生。怖い!!怖い!!


 きゃーーーーー!!きゃーーーーー!!


 これは、お姉さんの泣き声だ。後ろで並んでいた中にお姉さんがいたのだろう。お姉さんも、体罰は怖いのだ。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 相変わらずタックルし続けるお賽先生。怖い!!怖い!!


 うおーーーーん!!うおーーーん!!


 これは、おじさんの泣き声だ。後ろで並んでいたおじさんが泣き出したのだ。おじさんも、体罰は怖いのだ。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 うぇーーん!!うぇーーん!!


 怖い、怖い!!これは私の泣き声だ。私も、体罰は怖いのだ。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 うえーーん!!おぎゃーーー!!うぉーーんー!きゃーー!!きゃーー!!


 タックルし続けるお賽先生と泣き叫ぶ人々。正月早々、地獄だ。ここは、地獄だ。助けてくれ、助けてくれ。


 ドカーーン!!ドカーーン!!


 うえーーん!!おぎゃーーー!!うぉーーんー!きゃーー!!きゃーー!!


「そこまでだ!!」


 張りのある声!!この声はなんだ!!なんなんだ!!


「体罰は、やめなさーい!!」


 グオーーーーーン!!


 神社にある揺らすやつ、通称ガラガラ、正式名称本坪が、お賽先生の体にダイレクトアタック!!


 ぎゃーーーーー!!


 階段から転げ落ちるお賽先生!!


「も、もうしません〜〜〜〜!!」


 走って逃げていくお賽先生。これはきっと神の仕業。神が、体罰で体罰を罰したのである。


 すごいわ!!神様!!おんぎゃ♡おんぎゃ♡

 すごいぜ!!すごいぜ!!パチパチパチ!!パチパチパチ!!


 拍手喝采、人々は感動し、涙を流しています。


 すごいぜ!!すごいぜ!!


 きゃーきゃー!!


 カランカランカラ〜ン!!カランカランカラ〜ン!!カラン!!カラン!!


 神に感謝した人々は大量にお賽銭を投げ入れ、その年のお賽銭は過去最高を記録しました。


 一方この頃、お賽先生は


 フッフッフ....うまくいったぜ....。神様、賽銭箱、ありがとよ。


 神「お互い様よ。」


 賽銭箱「お互い様だぜ。」


 そう、これは賽銭を集めるための三人の演技だったのだ。


 完

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