天才バッターの苦悩

 かつて化け物と言われた天才バッターがいた。十年連続打率四割を打ち、世間で騒がれまくっていた。通称、タヌキ・武田。


 タヌキ・武田。タヌキ・武田。よくインタビューを受けた。


「どうしてタヌキ・武田さんはそんなにたくさん打てるのですか?」


 インタビュアー、the アナウンサーにインタビューを受けるタヌキ・武田。


「わからないよ。ハハハ。なんでこんなに打てるんだろうね。ハハハ。わからないよ。ハハハ。なんでこんなに打てるんだろうね。」


「ハハハ、わからないのでしたー!!」


 結局のところ私たちは何もわからないのだ。次の日も、その次の日も、タヌキ・武田は打席に立ち、バッドを振り続けた。


 ブンブンカキーン!!ブンブンカキーン!!


 ワーー!ワーー!!ワーー!!ワーー!!


 しかし、誰も気づかなかった。タヌキ・武田がベースの上でひっそりと涙を流していることを。孤高の四割打者の苦悩に、誰も気付いていなかったのだ。


 ある日のヒーローインタビュー。この日もタヌキ・武田は大活躍であった。一人でホームランを2本打ち、打点も6。


「皆さんに伝えたいことがあります。」


 ザワザワザワザワ、ザワザワザワザワ


 ザワザワする球場。ザワザワ、ザワザワ。


「本日を持ちまして、私、タヌキ・武田は、プロ野球選手を引退いたします。」


 えええー!!どよーー!!どよどよ!!ぎゃー!!きゃーー!!どがーん!!わあ!!ガラガラガラ〜!!助けてー!!誰かー!!ママ〜!!ママ〜!!


 どよめく球場。


「え、それは本当ですか?なぜなのですか?」


 動揺するインタビュアー。各局の画面上にはニュース速報のテロップが入っています。


「はい、兼ねてからのことなのですが、遂に限界が来てしまいました。ボールを打つことに対して、限界がきてしまいました。」


「と、というと?」


「ボールが可哀想です。あんなに強くバットで打たれて。人間だったら死んでいます。私はもう、、もうそんなことでき、、できない、、、、。」


 泣き崩れるタヌキ・武田。


 うぅっ、、うぅっ、、、。そんな、、うぅ、、うぅうぅ、、、そんな、そんな、、、そんな、、、。嫌だ、、あぁ、うぅう、、。


 もらい泣きするドームの観客たち。化け物は、優しさも化け物だったのだ....。ああ、全米は泣きました。


 完

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