スリ

 ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン


 電車が駅に到着しました。


 プシュー


 ゾロゾロゾロゾロ、ゾロゾロゾロゾロ


 金魚の糞のように、人々が電車から出てきます。


 ゾロゾロゾロゾロ、ゾロゾロゾロゾロ


 人々は階段を登ります。


 トコトコトコトコ、トコトコトコトコ


 みんな改札に進みます。お家に帰るんだ。さあ、財布からパスモを、、、と、そこで人々は気づきました。手がなくなっていることに。肘のあたりから先が、なくなっているのです。


「なんでかなあ、おかしいなあ。確か降りる時はあったんだけどなあ。」


 今来た道を振り返ります。


「うーん、どこだろう、どこだろう。」


 辿って辿って階段を覗きます。するとすると、するとするとするとすると、お、お、驚くべきことにことにことに、階段の手すりにたくさんの手が干されているではありませんか。まるでカーテンのようです。


「あ、あったあった。こんなところに。」


 人々は手を取り戻そうと階段を下ります。しかしどの手が自分のものかわかりません。一つ一つつけてみて、しっくりくるものを探すのです。とっても時間がかかります。


「うーん、これでもない。これでもないなあ。」


 階段には登ってくる人もいます。登って来る用通路の手すりに手が干されているので、自分の手を探している人とぶつかります。ごろんごろん転ぶ人、ぶつかった拍子に合体してしまう人も現れ、どっちゃんばんちゃん大騒ぎです。ああああ、困ったなあ、困ったなあ。


「手すりさん、なんで手を奪うんだい?」


 困った駅員さんが聞きました。


「それはね。手すりだから、手をスリたくなるんだよ。」


「なるほどね。じゃあこれからは垢スリと呼ぶよ。」


 それ以来、駅の階段を登ると人々の垢はスられ清潔になるようになりました。めでたしめでたし。


 完

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