駅のホーム
3番線、電車が通過します。危ないので黄色い線の内側までお下がりください。
アナウンスが流れる。電車が来る。
プオーン
左奥の方から電車がやってくる。深海に住む魚のように目を光らせながら。その手前、私の左の列に並んでいる人。二人。先頭が女の人でその後ろが男の人だ。女の人は20歳前後のOLだろうか。スーツに身を包んでいる。男の方は中年ぽい。背も高くて強そうだ。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
電車がホームに入ってくる。そのとき、男が女の人に手を伸ばす。女の人を線路に突き落とそうとしている。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
「あっ危ない!!やめなさいー!!」
叫んだが、間に合わず。男の人は女の人の背中を押した。
おいおいおいおい、こりゃあやべえぜ。女の人、死んだぜ。男の人、取り押さえなくちゃいけねえぜ。
そう思ったそのとき。
ぴゅーん
女の人は一直線に飛び、向かいのホームに着地した。
ぎゃあお、これは凄いものを見たぞ!!男の人、女の人をとばしたぞ!!
男の人、すごいー!!天才だわー!!かっこいいー!!感動しましたー!!
パチパチパチ、パチパチパチ
ホームに歓声があがった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
電車の音をかき消すほどの歓声だ。
「い、いやー。それほどでもー。」
男の人は頭に手を置いて照れている。
デレデレデレ、デレデレデレ
すごいー!!人間業じゃないわー!!神!!神ー!!なんでそんなに上手く押せるのー!!
ガタンゴトン、ガタンゴトン
そんなことにお構いなく、電車はホームから消えてゆく。いってらっしゃい、いってらっしゃい。電車が駅構内から消えたので、向かいのホームに女の人が立っているのが見える。凛と、立っている。その時。
ぴゅーん
女の人、こっちのホームまでひとっ跳び。ひとっ跳びで返ってきた。
ああ、男の人に押されて跳んだと見せかけて、実は女の人が一人で跳んでいただけだったんだ。女の人が跳んでいたんだ。凄いのは女の人だったんだな。
女の人、すごいー!!神ー!!人間業じゃないわー!!きゃー!!きゃー!!サインくださいー!!
歓声は女の人に向かうものへと変わった。
いやー、それほどでもー、女の人は照れている。
男の人、しょんぼりしょんぼり。残念でしたー。
完
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