あいうえ子の悲しみ

 山のてっぺん。ひゅーんひゅん、ひゅーんひゅんひゅん、ひゅーんひゅん(風の音)。


 展望台があります。せっかくなので下界を望遠鏡で見てみましょう。かちゃり、100円を投入。


 びーんびーん、びーんびーん


 すごいなー、すごいなー、色々はっきり見えるなー、すごいなー、すごいなー


 向こう側にも山があります。見てみよう。


 ぶいーん、ぶいーん


 望遠鏡を動かします。すると、あっちの山にも展望台があるようでした。展望台をのぞいていると、女の子が一人望遠鏡を覗いています。どうやらこっちを見ているようです。私たちは望遠鏡を介して見つめあっているのです。しばらく見ていると


「あ」


 女の子が画用紙に「あ」と書いてこっちに見せました。それを見た私はノートの一ページに


「い」


 と書き彼女に見せました。「あ」の次は「い」ですから、常識的に。すると今度は


「う」


 と見せてきたので


「え」


 と書いて見せ、次は「お」かな、へへへへへ、と思っていると


「子」


 と返ってきました。どういうこったいこれは、どういうこったいこれは。「あいうえ子」なんだこれは。何かのメッセージかもしれないぞ。私はインターネットで検索しました。


「あいうえ子」


 すると、あいうえ子さんのインスタグラムがトップに表示されました。各地の望遠鏡の写真がたくさん載せられています。DMを送ってみます。


「こんにちは。望遠鏡の向かいにいた人です。今度お茶でも行きませんか?」


「はい〜。いまからはどうですか?」


「いいですよ〜。ではぬなぬな喫茶で会いましょう。」


 〜数時間後〜


「こんにちは。私はあいうえと申します。」


「こんにちは。知っての通り、あいうえ子ですわ。」


 それから暫く談笑しました。


 あははは、うふふふふ、あはははは、うふふふふ


 何度かデートを重ね、結婚しました。


 パパパパーン、パパパパーン


 毎晩のように子作りをし、子供が生まれました。


 おぎゃあおぎゃあ、おぎゃあおぎゃあ


 女の子。女の子でしたので、「かきくけ子」と名付けました。


 ああ、幸せだ、順風満帆、人生イージー、人生イージー、そんなことを考えていましたが、ある日事件が起こりました。それは、かきくけ子が一歳の誕生日パーティーをしていたときのことでした。


 ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディアーかきくけ子ー、ハッピバースデートゥーユー!!


 おめでとう!!おめでとう!!


 フーッ!!


 かきくけ子がケーキの上のローソクを吹き消しました。


 おめでとう!!おめでとう!!


 みんなで祝います。しかし、


 メソメソメソメソ、メソメソメソメソ


 突然、あいうえ子が泣き出しました。嬉し泣きかな、そうも思ったのですが、どうやらそうでもなさそう。悲し泣きのようです。


「どうしたんだいあいうえ子、どうしたんだいあいうえ子。一体何が悲しいんだい。どうしたんだい、どうしたんだい。」


「何泣いてんだくそばばあ。祝えよばばあ。くそばばあ。」


 かきくけ子は怒っています。


「うぅ、こんなことって、こんなことって。私だけよ。家族で私だけ50音順に逆らってるのよ。みんなあいうえとか、かきくけ子とか、自然な流れなのに。私だけあいうえ子なのよ。酷いわ、酷いわ。孤独だわ、寂しいわ、疎外感だわ、疎外感だわ。もう限界だわ、もう限界だわ。」


 あいうえ子の頬に大粒の涙が流れます。


「うぅ、そうだったのか。そんなことに悩んでいたのか。かわいそうに、かわいそうに。」


「そうだったんだ。お母ちゃん、暴言吐いてごめんよ。」


 かきくけ子も謝りました。


 それからまた子作りを頑張りました。頑張ったのでまた赤ちゃんが生まれました。男の子でした。男の子だったので、かきくけという名前にしました。やったぜ!!これで2対2。みんな幸せ、ハピハッピー、みんな幸せ、ハピハッピー。


 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る