呼ぼう雪舟
「たかこさん、今日は呼ぼう雪舟をしにいらしたのですね。では早速、雪舟を呼びましょう。雪舟さん、出ておいでー、雪舟さん、出ておいでー。雪舟さーん。雪舟さーん。」
「いいえ、私は予防接種をしに来たのですわ。」
「はい、つまり呼ぼう雪舟をしにきたのですね。一緒に雪舟を呼びましょう。雪舟さん、雪舟さん、どこですかー!どこですかー!早く出てきてください。雪舟さーん!!」
「いいえ、予防接種をしに来たのよ。」
「なるほど。呼ぼう雪舟をしに来たのですね。雪舟さん!どこですかー!どこですかー!」
これはもう、どうしようもない。私は予防接種を諦め、この若い男性医師と共に雪舟を呼ぶことにしました。私一人ではどうしようもない、なにか大きな力、逆らいようのない運命のような、地震、津波に似たものを彼から感じたのでした。
「雪舟さん!どこにいますか?出ていらっしゃい、雪舟さん、雪舟さん。」
「雪舟さーん。雪舟さーん。雪舟さーん。」
「雪舟さん!雪舟さん!」
「雪舟雪舟雪舟雪舟雪舟雪舟雪舟雪舟。」
小一時間ほど経ったでしょうか。ベットの下からひょろりと、ナスのような男が現れました。
「はい、私が雪舟です。」
こいつは、雪舟ではない。私の本能はそう言っていました。しかし、
「こんにちは雪舟さん。会えて嬉しいです。では早速水墨画を書いてください。」
若医師はこの男に墨と半紙と筆を渡しました。
「勿論ですとも、ひょろひょろひょろ〜。」
雪舟と名乗るこの男性はひょろひょろひょろ〜、と絵を描きました。しかしそれはもう、酷いものでした。腐ったナスがおならをしているような絵でした。それでも男は描き続けます。
ひょろひょろひょろ〜、ひょろひょろひょろ〜
ブオオオン!!
突然、もう一人男が現れました。頭にはそれっぽい帽子を被り、ブルーベリーのような目は真っ直ぐ前を見つめていました。
雪舟だ
私は思いました。なんの根拠もありませんが、そういう説得力が彼にはありました。
「私が雪舟だ。」
彼は真っ直ぐ前を見つめたままいいました。
「雪舟さん、どうして、どうやってここにいらっしゃったのですか?」
私は尋ねました。
「うむ。未来で私の偽物が暴れていると聞きましてね。すごい速さで動いて来ました。すごい速さで動くとね、未来に行けるんですよ。これはあまり知られていないでしょうけどね、私はすごい速さで動けるんですよ。」
すごい!本物の雪舟だ。奥に立っている二人はニヤニヤ笑っています。
なに、こうやって雪舟をおびき寄せる作戦だったんだ、と顔に書いてありました。
さすが、若医師。私は感心しました。
「こんにちは雪舟さん。会えて嬉しいです。では早速水墨画を書いてください。」
「勿論ですとも、では。ひょろひょろひょろ〜。」
本物雪舟も、ひょろひょろひょろ〜、と描いていきます。しかし、流石本物。上手です。
「すごい〜。」
「上手い〜。」
「すんごい〜。」
私たちは口々に彼を褒めました。
ぷーん
しかし、臭い。雪舟さんは臭いです。
「雪舟さん、臭いです。」
私は言いました。
「うむ。確かに私の時代とこの時代の衛生は大きく異なっているだろうし。きっと私は臭いよ。」
雪舟さんはいいました。私は近くにあったリセッシュを雪舟さんにかけました。雪舟をリセッシューしました。
完
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