た抜き
ふう、今日も一日、疲れたな。
私は風呂に入っている。すると、ポンポコポンポコ、音がする。泡の音かな。ふと目をやると、たぬきがいた。
「私は、風呂のたぬきポンポコ、ポンポコ。」
「ほう、風呂のたぬきとな、普通のたぬきと、何が違うのだ。」
「何も違わないポコ、ただ風呂のたぬきと名乗っている、普通のたぬきポコ。」
「そうか、ならばお主に名を与えよう。」
私は彼に「風呂のたぬき」という名を与えた。
風呂から出る。たぬきは私の書斎から本を引っ張り出し、読んでいる。
ほう、たぬきも本を読むのか。
私は感心した。しばらく様子を見ていると、もぞもぞし始めた。どうやら自慰行為をしているようだ。
どういうことだ!!!何に対し興奮しているのだ!!!
私はたぬきの視線を観察し、目を疑った。なんせたぬきは本の中の、『た』という文字を、見ていたのだから!!
ポンポコッ!!
自慰行為が終わった。たぬきは、疲れて眠りそうだった。今にも目を閉じようとしている。駄目だ、駄目だ、私はお前に聞かなければいけないことがある。
「風呂のたぬき、もしかして今、『た』をおかずに自慰行為をしていたのか。」
私は聞いた。
「そうだポンポコ。なにかおかしいかポンポコ、ポンポコ。」
「おかしい!!!!」
普通性的興奮は性対象に持つものである。『た』という文字が、たぬきの性対象であるはずがないのだ。たぬきの性対象は、たぬきなのだから!!!
「何がおかしいポコ。たぬきはみんな、『た』で抜くポコよ。ポンポコ、ポンポコ。」
「おかしい!!絶対に、おかしい!!!」
「何がおかしいポコ。もういいポコ。外で寝るポコ。」
風呂のたぬきは外へ出て行ってしまった。
信じられなかった。たぬきが『た』で抜くなんて。しかし、この目で見たのも事実。もしかしたらあのたぬきだけ特殊だったのかもしれない。どちらにせよ、真実を確かめなければ。
次の日私は、大きく『た』と書かれた看板を森に建てた。あのたぬきが言っていたことが正しければ、たぬきが集まり、自慰行為を始めるはず。
遠くに離れ、草陰に身を潜める。
ガサゴソ
たぬきが一匹現れる。『た』を見る。自慰行為を始める。
ガサゴソ、また、たぬきが。自慰行為を始める。
ガサゴソ、ガサゴソ
またたぬき、またたぬき、、、、
大発見だ!!!!!!!!
私は興奮した。こんなたぬきの生態。今まで知られていなかった。私はその様子をまとめ、分析し、論文化、学会に発表した。この発表は、大きな反響を呼び、こぞって追試が行われた。至る所に『た』の看板が立てられ、ほとんどの場合、たぬきは『た』で自慰をしていた。しかし、海外のたぬきは『た』で自慰をしなかった。ここから、ある仮説が生まれた。
たぬき達は「たぬき」と呼ばれることによって『た』で抜くようになったということ。
つまり、人間たちに「たぬき」と呼ばれることによってたぬきたちは、
自分たちは『た』で抜くのだ!!
と思い込み、『た』で抜くようになったということだ。海外では「たぬき」と呼ばれないので、海外のたぬきたちは『た』で抜かなかったのだ。
これは、他の動物でも言えるのだろうか。私はきつねに『き』を与えてみた。
草陰に身を潜める
きつねが現れる。
ツネツネ
つねった!!きつねが、『き』をつねったのだ!!
私は再び興奮し、学会で発表。これら一連の発見により、私は生物学の第1人者となった。
ちなみに、くまを「くまち」と呼ぶようになったら、『く』を待つようになったよ。やったね、やったね。
完
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