優しい世界

 俺は元パイナップル社社長。総資産50兆円。人生の勝ち組。


 楽しい人生だった。20歳で起業してから、全てが上手く言った。起業後間も無く世界的企業となり、大した問題もなく40年が経過。私は信頼できる者に後を託し、定年退職した。責任ある立場を離れ自由の身となった私は、楽しい老後を思い浮かべながら、ゲンゴロウ採りをしていた。


 ジャブジャブ、ジャブジャブブ


 ゲンゴロウ、なかなか見つからない。


 ドッブン


 アアッ!!


 大変だ。川に50兆円を落としてしまった。


 ドンブラコ、ドンブラコ、ドンブラコ、ドンブラコ


 50兆円はあっという間に流されてしまった。これでは、これから生きていけない。銀行強盗をしよう。


 家に帰りナイフを持つ。近所の銀行に入る。受付が三つ。受付の奥にも、五、六人。私以外に客はいない。


「金を出せ」


 私はナイフを手に受付嬢を脅した。


 キャアアアッ


 穏やかな空気が一変、緊迫する。銀行員達は顔を青くし、金を集め始めた。しめしめ、私は安心しきっていた。しかし.....奥の方で私を見ながらこそこそ話しをしている銀行員がいる。どうやら私の手元、ナイフを見ているようだ....。なにか、変だろうか。それにつられ、私も手元を見る。私の手には人参が握られていた。


 しまった、ナイフと人参を間違って持ってきてしまった。


 バレるのは時間の問題。私は銀行員達にいった。


「用事を思い出した。すぐに帰る。それまでに金を準備していろ。」


 銀行から出た私は近所の雑貨屋に入り。銀色のスプレーを購入。人参に吹きかけ銀色にした。


 よし


 再び銀行に入る。受付には山盛りの札束が用意されていた。よし、よくやった。私は持っていたカバンにそれを詰めようとした。


「待ちなさい。」


 銀行員1が言った。


「さっき君が、人参を持っていた、という証言があるのだが、本当かね。」


 くそ、すでにバレていたか。しかし、この時のためにさっきスプレーを使ったのだ。


 私は懐から銀色の人参を取り出した。


 サササッ


 アアアッ


 銀行員達はどよめき、怯えた。失神する者もいた。しかし、


「ナイフにしては太い。」


 ある銀行員が言った。さっき私を見て、こそこそ話をしていたものだ。


 彼は続けて、こう言った。


「それは、人参ではないか?」


 なんて勘が鋭いやつだ。なんとか言い逃れてやるぞ。


「これは、人参に見せかけたナイフである。」


 私は言った。


「さっきのナイフはオレンジ色だっただろう。人参に見せかけたナイフであるなら、人参から離れるような装飾を施す必要はないはずだ。」


 痛いところをつかれた。そのとうり、反論の余地はない。私が言葉に詰まっていると、彼は続けた。


「このうさぎに食べさせて見よ。このうさぎが、それを食べたら、それは人参、食べなかったら、人参に見せかけたナイフだ。」


 そう、ここはうさぎんこう。つまり、うさぎがいる。


 追い詰められた私はやけになり、手に持っていた人参を、ウサギに与えた。


 はい、どうぞ


 ポリポリポリ


 ウサギは容赦なく食べた。例の銀行員は勝ち誇り言った。


「私の勝ちだ。」


 ピッカーーン


 この状況を打開する解決策を思いついたぞ。私は言った。


「私は銀行強盗に見せかけて、うさぎに餌を与えに来たのです。」


 どよよよよよっ、銀行員達が一斉にどよめいた。そして、銀行員1が言った。


「なんて素敵な人なんだ。このお金は全部あなたに差し上げます。」


 山のように積まれたお金をバックに詰め、自動ドアから外に出る。


「ありがとうございました。」


 銀行員達が一斉に頭を下げる。こんな世界に生まれて来てよかった。


 完

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