#07 フォローの上、DM

 何やら物騒なことが聞こえた。


『相手は汚らわしい男子です』

『そうです、容赦する必要もありません』

『先生やっちゃってください』

『いや、僕も男なんだけどなぁ』

『先生は女子力があるからいいんです』


 謎理論……女子力高ければいいのなら、さっきまで美少女だった俺はどうなるんだよ。女子そのものだったんだぞ。

 男性教師そいつは中々の筋肉してるだぞ。だぞーんで見れるスポーツ選手並みだぞーん。

 ……もとい、俺もそこそこは鍛えているが、流石にあそこまでは、無い。彼は、毛のない綺麗な腕で、細いのに力強さがある、細マッチョな腕だった。

 しかし、女子は筋肉がある方が好きなのか、それとも細くて筋肉のある方がいいのか、これでは判別が付かない。いや、女子力とか言っていたのだから、別に惚れているとかの話ではないのか。

 いやいや、そんな悠長なことを考えている暇なのかよ、俺は……


 危機的状況下に陥ると人間は、パニックを避けるために冷静になるという。今はそういった状況なのだろう、と考えるほど冷静である。

 女体化が解けた時、出入口を女子の壁で塞がれた俺は、自分の身体能力を生かし、窓から下の階に逃げ込んだのだ。流石、お嬢様学校。ベランダがあったのが幸いだった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「……ねぇ、ここにいる可能性は」


 侵入した階の適当な教室でやり過ごそうとしたが、廊下から声が聞こえた。声であの男教師もいるとわかる。

 これじゃぁ、どうしようもない。まどから逃げようとしたが、外からもお嬢様たちの声が。

 女の子たちに囲まれた生活は夢に見たが、こう包囲された状態は望んでいないっての……


 ◆ ◆ ◆ ◆


 スゥ、と滑らかな引き戸が開かれ、そこからフローラルな香りが漂ってくる。俺は、ロッカーに隠れてその匂いを嗅いでいた。


「うむむ、どうでしょう先生」

「僕はエスパーじゃないし魔法も使えないからね、すぐにはわからないよ」


 ……数分。息を殺す。


 その時、チャイムの音が鳴り響いた。

 お嬢様たちはその音にあたふたとしながら、探索を一時中断した。そして、チャイムが鳴り終わり、胸をなでおろすと同時……俺のケツポケットのスマホがブブッと振動した。


「「「あらっ」」」


 あれれ……サイレントにしてなかった系男子。運が悪い。経験上、これはtwitterによるものな気がする。Gmailかもだけど。

 いや、そんなことは今どうでもいい。今はまずい状況だ。

 ほら、女子が近づいているぞ、お嬢様だぞ……んでも、この女――濃い。匂いが濃い。

 ネットリとした匂い、自己主張の激しいその目と見つめあう。こっちは影になってるから、俺から一方的に、だろうけど。

 ……う~ん、まずい、やばい。どうしようもない。しなやかな動きで、ロッカーに手をかけられる、瞬間。


「何をなさっているのでしょうか、貴方達」


 静かに、されど教室に響く澄んだ声。


「しっ紫雲会長……」

「すっすみません、ですが」

「ですがとは、男が侵入したという話でしょうか。しかし、それは貴方達の仕事ではない」


 紫雲会長……成美の姿がそこにあった。出会い系ではじめて出会った時と同じ制服姿だが、雰囲気が全く違う。

 表情はここからではよく見えないが、声から想像がつく。笑っていないな、と。


「先生も先生です。もう、チャイムが鳴っています。貴方達は教室へ、先生は担当授業がありますよね」

「あっあぁ」

「さぁ、さぁ」


 助かった……んだよなぁ。

 一気に静かになったので、ロッカーから出る。廊下をこっそり覗くと誰もいない。

 半ば無意識のうちにスマホのロックを解除して、通知からアプリに飛ぶ。予想通り、twitterが起動。

 今度はtwitterの通知のベル状のマークに触れる。ベルの横についていた数字が消えるのだが、何となく気持ちがいい。


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○Microus【公式】 @microus_jp ・現在

 @g_horse様、突然の連絡失礼します。

 私、ミクロウスジャパンの峰崎と申します。現在、twitter上で話題となっている心霊動画について、お聞きしたいことがあります。つきましては、当アカウントをフォローの上、DMにてご連絡頂けないでしょうか。

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 ……嫌です、と(ノリで)答えようとしたが、俺の居ないところで既にクソリプ合戦が巻き起こっていた。俺のフォロワーではなく、ミクロウスのフォロワーだろう。知らん人ばっかりが、『イヤです』『あぁぁぁぁ……』とか適当に返事を打っている。

 日本の最大企業の桁違いのフォロワー数を、こんなことで実感するなんてな。まぁ、ワザワザ自分で返事を打つ手間が省けたもんだ。


 成美に感謝をLINEで伝えようかと思ったが、どうしようか。さっきの成美は、生徒会長として授業に向かわせただけなのか、侵入者が俺だと気づいて助けてくれたのか……分からん。女心、分からん。


 窓の外からはパトカーが数台止まっているのが見える。成美……授業どころじゃないかもしれんぞ。

 俺はユウにすぐに迎えに来るよう、電話を入れた。

 



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