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そうしてまた、二年が経った。
僕たちは約束の通り、卒業と同時に結婚した。
若すぎる結婚に僕たちの両親はあまり良い顔をしなかったが、それでも最後には納得してくれた。
経済的な理由から、式は挙げなかった。
もちろん、写真も撮りはしなかった。
ウエディングドレスや白無垢姿の優希を見ることが出来なかったのは、今でも残念に思う。
結婚式も挙げることが出来ない自分の不甲斐なさに落ち込む僕の肩を、彼女は豪快に叩く。
それから、口いっぱいに含んだクレープを咀嚼した後、なんてことなくこう言い放った。
「まぁ、また今度すれば良いでしょ? それに私だって悟のタキシード姿を見られなくて残念なんだからお互いさまだよ」
あっけからんとそう言った彼女が、眩しくて、かっこよかった。
結婚生活は、酷く穏やかに安寧と過ぎていった。
優希は相変わらず、甘党で、泣き虫で、写真嫌いだったし、僕も相変わらず、そんな彼女を愛しく思っていた。
そんなある日、優希が泣きながら僕に縋り付いてきた。
一体、何事かと身構える僕の耳に彼女の声が聞こえてくる。
「悟……」
「ど、どうかした?」
僕の声は随分と震えていたと思う。
「あのね……家族が、出来たみたいなの……」
優希がそう言って、僕の身体に腕を回すも、僕の思考は停止している。
何の反応も示さない僕を不安に思った優希が、僕の胸から顔を上げて覗き込んでくる。
「悟? ……嬉しくない?」
彼女の声に、僕は意識を現実に引き戻した。
それから、じわじわと彼女の言葉に実感が伴い始め、
「嬉しくないわけがないだろう……」
僕は優希の華奢な身体を抱き締めた。
もう彼女一人だけのものではないその身体を、慈しむように。
僕たちは、顔を見合わせて笑い合う。
二人の目元はちょっとだけ濡れていた。
だんだんとお腹が大きくなっていく優希を見て、日々僕は幸福を感じていた。
そして、彼女が産休に入ると同時に僕の夢も叶い始めた。
僕の書いた小説が小さな賞を取ったのだ。
しがない大学生から、しがないフリーライターになった僕は、どうやらしがない小説家へと歩んでいくらしい。
それはまさしく順風満帆な毎日だった。
そして、そんな日常が永遠に続くと、僕は微塵も信じて疑わなかった。
何の確証もありはしなかったのに……。
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