魔法使いと珈琲を

宇部 松清

序 さくらいかなこ著 『いだいなるまほうつかい』より

 むかしむかし あるところに いだいなるまほうつかいが おりました


 いだいなるまほうつかいが ふぅっと いきを はくと それは たちまち おおきな たつまきに なりました


 いだいなるまほうつかいが ゆびを ぱちんと ならすと ろうそくの ちいさな ひは おおきな りゅうの かたちに なりました


 いだいなるまほうつかいが コップの みずを かきまぜると どんどんどんどん あふれてきて ついには まちじゅうを みずびたしに してしまうほどでした


 でも いだいなるまほうつかいは けっして わるい まほうつかいでは ありません


 まほうは かならず だれかの やくにたつために つかうのでした


 だから いだいなるまほうつかいは みんなから すかれていると おもっていました


 あるとき いだいなるまほうつかいは じぶんの およめさんを さがしに たびに でました


 たちよった ちいさな まちで うつくしいむすめに であいました


『こんにちは ぼくは まほうつかいです ぜひ ぼくの およめさんになってください』 

 いだいなるまほうつかいは いいました


『あたし ふつうの にんげんが いいわ』 

 うつくしいむすめは いいました


 どこへいっても どんなに ひとのやくに たっても いだいなるまほうつかいは ひとりぼっちでした


『ぼくは ふつうの にんげんじゃないから ふつうの にんげんを およめさんには できないのかな』 

 いだいなるまほうつかいは つぶやきました


 あるとき おおきな まちに むかう とちゅうの ちいさな ちいさな むらで めの みえない むすめに であいました


 いだいなるまほうつかいは そのこを おどろかせないように そぅっと こえを かけました


『こんにちは おじょうさん きょうは あたたかくて いいおてんきですね』


『こんにちは あなたは だれですか』

 むすめは こたえました


『ぼくは ふつうの にんげんなんですが いま およめさんを さがして たびを しているのです』 

 いだいなるまほうつかいは はじめて うそを つきました


『まぁ! ふつうの にんげんは じぶんのことを ふつうの にんげんだなんて いわないのよ』 

 むすめは わらいました


  いだいなるまほうつかいは しまった! と おもいましたが もう かくしても しかたがないので

『ごめんなさい うそを つきました ぼくは まほうつかいです でも およめさんを さがしているのは ほんとうです』 といいました


  むすめは すこし かんがえてから いいました


『それなら あたしが およめさんになるわ』 

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