腐った世界の攻略法 『ゾンビが溢れた世界で彼等を支配する王の力を手にいれました 』

岸辺 露満

プロローグ

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ!!

 俺の全身にこれまでの18年間の人生で感じた事のない激痛が走る。

「やめろやめろやめろっっ!!」

 死んでもおかしくないほどの痛みを感じているのに、俺の中のまだ冷静な部分が自分に何が起こっているのかを冷酷に理解させてくれる。



 俺は今、食われている・・・・・・それも大勢の同じ人間から。



 いや、俺を食っているそれ・・を果たして人間と言っていいのかは分からない。何故ならそいらは既に人ではない。顔面が陥没しても平気で歩く奴ら・・

 人を襲い、その肉を嬉々として食らう奴は人間とは言わない。

 化け物だ。そしてその化け物に襲われた人間は化け物になる。その恐ろしさと醜さは、空想フィクションの世界にいるある化け物を否応なく連想させた。



 ゾンビ。 



 そう、ゾンビだ。今俺を食らっているのはゾンビなのだ。

(なんで、こうなったんだよ……)

 もう騒ぐ気力すらなくし、俺はただ呆然と自分がここにいたるまでのことを思い返していた。

 ちょうど一ヶ月前に世界のいたる所でゾンビが現れた。原因は不明。始めは大した数ではなかったようだが、奴らは襲ったものをゾンビにするという性質を持ち、仲間を増やしていった。

 まるで三流のB級ホラー映画のように、無駄な抵抗しか出来ない人類は奴らに搾取されていった。

 


 そしてその一ヵ月後人類とゾンビの数は逆転した。

 


 誰もがこの世界に絶望した。もう生きるのは不可能だと。

 ゾンビに襲われ、奴らと同じになるぐらいならと、自ら死を選ぶ者さえいた。だが、俺 皐月 こころは生きる道を選んだ。

 ゾンビになるという無様な結末しか残されていないとしても、俺には生きなければならない理由・・があった。

 だから生きた。新しいこの世界に適応し、生き残って来た。一緒に行動することになった同級生達と協力し、俺は何とか生き残ってきたのだ。

(生き残ってきたのにな……)



 だというのに、俺は今、無様な結末・・・・・を迎えていた。



(なんで……)



 このような結末になっている?

 食われていく自分の肉体を見ながら、ただ疑問が湧き上がった。

 ああ、確か仲間達と行動をしていたら生き残っていた別のグループと合流したんだ。

(それから?)

 一緒に行動していく内に、別グループのリーダーだった神条かみじょうってやつと言い争いになって……

(それで?)

 数日経ったら俺の仲間のクラスメイト達が神条の仲間になっていて……

(どうしたんだ?)

 裏切られた。

(……)

 あの日休息をとっていると、仲間だと思っていたクラスメイトに俺は背後から襲われた。気絶から目が覚めたら、ひどく楽しそうに笑う神条がそこにいて……

 俺にこう言ったんだ。



「君にはこれからあの化け物達の餌になってもらうよ」



 手錠で足と手を拘束された俺に逃げることんて不可能だった。そして今俺は神条の言うとおり、奴らの餌になっている。

 ゾンビにとって今の俺はただの餌にすぎないだろう。

 皆、嬉しそうに俺の身体に食らいついてくる。もう痛みすら感じなくなった。

 ゾンビに噛まれた人間はゾンビになるというこれは俺も化け物の仲間入りか?

(まったく……本当に無様すぎる腐ったエンディングだ)

 周りは腐敗しまくってるゾンビ共。当然視界も腐った奴らしか見えない。聴覚もゾンビ共の腐ったような気持ち悪い声しか聞こえない。嗅覚など言うまでもなく、触覚すらもゾンビ達と触れ合っているのだ。当然最悪だ。

 まったくもって腐っている。俺の周りのすべて――いや、この世界そのものが腐っている。

「……腐ってやがる」

 呟いた。周りに言葉の意味なんて理解できる奴なんているとは思えないが、呟かずにはいられなかった。

 と、今まで俺を食っていたゾンビ達がぴたりとその動きを止めた。

 不思議に思い、辺りを見回そうとして首を動かしたかったが無理だった。  

 どうやらすでに首をうごかすことができないほど損傷してしまったらしい。そのくせに痛覚はまだある。もう慣れた・・・が、出来る事ならさっさと殺して欲しい。

「……」

 俺の視界からゾンビ達が消えた後現れたのは、見たこともない美少女……否、美幼女だった。輝く銀髪にゾンビ達と同じ赤い目よりも更に濃い深紅の瞳。美しい、ただ美しかった。この腐った世界の中で唯一の美に会えたのだと言っていいほどその幼女は美しかった。

 どうしてこんな小さな子供がここに? いや、なぜこの幼女は無傷なのかという疑問は当然湧き上がったが、それを考えられるほど俺の命は長くない。

 視界が赤く染まる。これから俺は本当に死ぬんだと、直感的に悟った。

「……」

 薄れいく意識の中、幼女が俺の身体に覆いかぶさったような気がしたが、当然のごとく俺には確かめるすべなどなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る