第1話

 さえり王国、その中央である都市、玉都。

 華やかなる首都、さえり城下は外堀の中。白い壁で四辺を囲った堅固な結界区域の中にある。


 開門時間前の城門へと近づいてくる右手に木箱をのせたキャリーカートを転がしながらやってきた小柄な少年に、門の両隣りに立ちながら守っていた2人の門番は身構え刀を抜く。

 いくら小柄で少年とはいえ、罪を犯そうとするものに年齢は関係ない。見た目だけで言えばあどけなく可愛らしいものの方こそ無邪気に残酷だったりする。油断はできない。


「何者だ!?」


 きゅるきゅる石畳で舗装された道にキャリーカートを引きながら四苦八苦しつつ、門番たちに近づいてきた少年は。首にかけてあった赤い紐の先、服にしまわれていた部分を見せる。その先についていたのはホルダーに入っている身分証明書だ。裏には入城許可の印も押してあった。


「おはようございます! 伏御飴細工工房の伏御まさきです!」

「おはよう、身分証は見えるようにしておかないといけないよ」

「お抱え飴細工師のところに行くんだね? あっちに見えるのが伏御飴細工工房の作業場だ。あそこに行くにはこのまま道なりに行って、Y字になったところを左に行けばいいから」

「はい、ありがとうございます!」


 少年・伏御ふしみまさきが来ると事前に連絡を受けていた門番たちは構えを解く。ちんっと音をさせて刀を仕舞う。元気いっぱい、明るさのにじみ出た笑顔に挨拶されてつられたように笑顔になった。

 元気良くお辞儀して、笑顔を見せると。まさきはきゅるきゅると音をさせて開けてもらった門をくぐって城の中へと入った。


 まさきが通り過ぎたのを見てすぐに門を閉めた門番たちが。


「元気のいい子だったな」

「ああ。なんていうか…子犬みたいだった」


 身長150cmちょっとしかなさそうな小柄な少年であった伏御まさき。しかし、これから伸びゆく若々しい新芽のような力強さとみずみずしさにあふれた少年だった。

 そう、くすくすと小さく笑われていることに気付かないまま。

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