それは序章
この世には定石というものがある。
それすなわち、物事を処理するときの最上とされる方法・手順のことである。
例えば飴細工を作る工程、例えば
それをあげればきりがない定石の中で、自分がここにいることもまた定石なのだと王子さまはわかっている。
自分が骸虫に好まれる存在であるがゆえ、こうして隠れた骸虫をおびき出すためのエサとして骸虫駆除に駆り出されることも。
そして牛車の中で震えることすら許されないのに、怯えているだけの自分に呆れと嫌悪が募る。
これは定石で、必要なことで。そうわかっているのにそれをやめたいと思ってしまう自分。何も考えず粛々とお役目をこなせない自分。
そんなだから、骸虫たちは自分に惹かれてくるのだと自らを責める日々。
「ぎぃぃ―――!!」
案外近いところで聞こえた骸虫の叫びに、王子さまは白い肌をさらに白くさせて。正座した太腿の上に置いた手をぎゅっと握った。牛車の周りには骸虫が一切近づけないようにトップクラスの結界師たちが張った結界があるが、物事には絶対ということはあり得ない。視線をそこに落として、王子さまは思う。
(終われ、終われ、終われ)
早く終わってしまえ。こんな命を奪い奪われる戦いも、王国に害をなすものを引き込む自分も、こんな定石も。早く早く、終わってしまえ。
それが無理ならいっそ―――。
誰か、助けてくれないか。
「王子様、終わりましたよ。帰城いたしましょう」
「…ああ」
御簾越しにかけられた涼やかな男の声に返事をしながら、王子さまは肩から力を抜いて。
慟哭にも似た願いをそっと胸の中に隠したのだった。
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