G×Gのキセキ
紺野幸夢
第一章
プロローグ ある日の朝
事の発端は、部屋の片隅に無造作に置かれていた一振りの機工剣だった。
機工剣は剣と名が付いてはいるものの、実際に刃が付いている訳では無く、特殊な燃料を用いる内部機構を起動させる事で初めて剣としての機能を持つ物だ。だから、燃料さえ空なら基本的に危険な物ではない。
何が良くなかったかと聞かれれば、その油断がまずかったのだろう。
少年、ウェイル・サーランドは昨日の深夜、久々の本業を終えてクタクタになって帰ってくると、自身の商売道具である機工剣から燃料の入ったシリンダーを取り外して、部屋の隅に無造作に立てかけると、そのまま疲労に任せてベッドに直行してしまった。シリンダーさえ外しておけばただの鉄塊だから大丈夫だ、との認識があった。
そして翌朝、疲労が抜け切らず夢と現の境界線上でまどろんでいたウェイルを、轟音と悲鳴が襲った。
「──ッ!?」
反射的に飛び起きたウェイルの前に、ちょっとした惨状が出来上がっていた。
立てかけてあった機工剣が倒れており、その傍では一人の少女、リリィが、しまった、と言った風の表情をしていたのだ。その表情はまさに、悪戯が見つかった時の子供のそれだった。
一目見て、リリィが機工剣を倒してしまったのだ、と解る状況である。
「リリィ……。俺、それは危ない物だから勝手に触っちゃダメだって、何度も言ったよな?」
ウェイルの語気は自然と荒くなる。リリィが言い付けを守らなかった事もそうだし、自分の大切な商売道具──それも武器だ──を荒く使われた事に対しても、どうしても腹が立った。
その時、ウェイルの頭の中では、根本的に自分がちゃんと機工剣をしまっておくべきだった、という点は怒りの霧の遥か向こう側で見えなくなっていた。寝起き、という点もそれを助長した。
「う……、リ、……リリィは悪くないモン! 勝手に倒れたの!」
少女の口から咄嗟に出る否定の言葉。
とはいえ、そんな安定を欠くような置き方は流石にしていない。明白な嘘だった。
「ッ……。あのなぁリリィ──」
そうして口論が始まって三分もすると、ウェイルの頭も大分冷えて来た。対して、リリィは相変わらず怒り心頭のままだった。よりイメージを優先して表現するなら、ぷんすか怒っている、という態だ。
「──、解った、解ったよリリィ。確かに俺がそいつを片付けなかったのも悪いよな」
結果、こうしてウェイルが先に折れる事になる。
ただ、全面的に折れる訳には行かないのもまた事実であるので、オマケが付く事になる。
「ただ、やっぱりリリィも悪い。機工剣は危ないから勝手に触っちゃいけないっていつも言ってるだろ? 動いてなくったって、それなりに重たいし、硬いんだ、それだけでも十分危険なのは解るだろ?」
「ぅー。リリィは悪くないッ。ウェールの馬鹿ぁっ!」
リリィはそう叫ぶと、そのまま勢いに任せて部屋を飛び出していってしまう。
「だから俺はウェイルだってのに……。はぁ……」
未だ自分の名前を正確に発音してくれない事に軽く頭を抱えつつ、どうしたものか、と考える。
今すぐ追いかけて行くべきなのか、落ち着いた頃合を見計らうべきなのか、ウェイルには判断が付かなかった。
如何せんリリィの気持ちが良く解らない。自分もそういう時分があったハズなのに、もう思い出せないのだ。
ウェイルは、十五歳の、自分よりほんの一回り小柄な少女をどう扱うべきなのか、ほとほと図りかねていた。
ふとカレンダーに目をやって気付く。リリィを拾ってから、もう三ヶ月が過ぎていた。
「三ヶ月、かあ……。長かったんだか、短かったんだか、良く解らないな」
誰にでもなく呟く。ただ、一つ確かな事もあった。
「ま、大分馴染んできたのかな」
さて、これ以上ほったらかしにして拗ねられても困る。──ウェイルはリリィを追いかける事にした。
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