indoシナセン課題集(旧)(2016~2017/3)
indo
『傷だらけの募金箱』(課題:魅力ある男)2016/4/6
『傷だらけの募金箱』
人物
黒咲慎一(31)ヤクザ
洲崎深白(22)シスター
男
ヤクザA・B
シスター
警官
男
◯ターミナル駅・駅前の道
高層ビルが立ち並ぶ駅前。
多くの人たちでごった返している。
シスター服を着た若い女性たちが募金箱を持ち、募金を呼びかけている。
その中に、シスターの洲崎深白(みしろ)(22)。
通行人の男性が深白の前に立ち、財布を取り出す。
深白「(笑顔で)ありがとうございます。あなたに神のご加護がありますように」
深白の差しだす募金箱をつかむ男。
深白「きゃっ」
男が募金箱を力ずくで奪う。
人波をかきわけて逃走する男。
深白「(追いかけて)待って!」
男が前方のスーツの男性にぶつかる。
スーツの男性がふり返る。
スーツの男、黒咲慎一(28)、目の上に傷跡があり、どうみてもヤクザ。
黒咲「あアん? なんだテメエ」
逃げ出そうとする男の肩をつかむ黒咲。
黒咲「ぶつかったら、謝るのが筋じゃねえのか?」
男、泣き笑いで何度も頷く。
とろくさい駆け足で深白がやってくる。
募金箱を置いて慌てて逃げだす男。
黒咲「おい待て、こいつは……」
募金箱を拾い上げる黒咲。
黒咲を見つめる深白。
深白「(何か言いたげな表情で黒咲を見る)」
黒咲「……これ、アンタのか?」
深白「そこで募金活動をしていて、引ったくりに遭ってしまって……」
黒咲「そいつは災難だったな」
深白「(微笑して)助けていただいて、ありがとうございます。お優しいんですね」
黒咲、イラついた表情。
黒咲「おれが優しいだと? 笑わせるな」
黒咲、凄んで深白に一歩近づく。
黒咲「それでこの商売がやっていけるか。おれたちは人をビビらせんのが仕事だ。優しいだなんて思われたら、ナメられて終わりなんだよ」
真正面から黒咲を見つめる深白。
深白、募金箱を持つ黒咲の手に自分の手を重ねて、
深白「それでも、私はあなたが優しい人だと思います」
眉間にしわをよせ、逆上する黒咲。
黒咲「うっせえんだよ!」
深白の手を乱暴にふり払い、募金箱を力任せに地面に叩きつける。
呆気にとられる深白。
したり顔の黒咲。
シスター仲間の一人が駆けつける。
黒咲、背中を向けて立ち去る。
シスター「ヤバいよ、あの人。通報しようよ」
深白、粉砕された募金箱を悲しそうな顔で見つめる。
◯若林組・事務所内
ソファで話している若いヤクザたち。
ヤクザの一人は、片目に青アザ。
ヤクザA「どうしたんだ、その顔?」
ヤクザB「黒咲の兄貴にやられた。機嫌わるいといつもこうなんだ」
ヤクザA「そいつは理不尽な話だな」
ヤクザB「でも、怖くて誰も逆らえねえんだ。怖い噂もあるしな。なんでも18んときにキレて父親をバットで殴って半殺しにしたらしい。今でも寝たきりって話だ」
扉があいて、黒咲が入ってくる。
黒咲を見るなり恐縮し、ソファから立ち上がってお辞儀する2人。
ヤクザA・B「兄貴、お疲れ様です!」
眉間に皺をよせ2人の顔を見る黒咲。
ヤクザAの胸ぐらをつかみ、拳をふりかぶる。
◯駅前・道
私鉄の駅前。
不動産屋や飲食店などが立ち並ぶ。
人通りはそこそこ。
黒咲の進行方向から募金活動の声。
深白を含むシスターたちが路上で募金活動をしている。
黒咲、通りががりざまに、深白に凄みを利かせてにらむ。
目が合い、ポカンと口をあける深白。
深白「(微笑して黒咲の手を握り)先日はどうも。今日は募金してくださるんですか?」
驚愕する黒咲。すぐに怒りの表情に変わって、深白の手を力をこめて握り返す。
黒咲「(ドスを利かせ)ナメてんのか、てめエ?」
深白、真正面に黒咲を見たまま微笑む。
握られた深白の手をふり払うが、何かに気づいたような顔をし、手放した深白の手を再度引き寄せる。
深白「……?」
黒咲、深白の手をひっくり返す。
深白の手の甲に、タバコを押しつけられた火傷跡が何箇所かある。
黒咲の表情に余裕が戻る。
黒咲「アンタ、この火傷、根性焼きだろ。シスターのくせにアンタも若い頃はヤンチャしてたんだなア。そうは見えねえのによオ」
深白、さびしそうに笑って答えず。
黒咲「今後おれを見かけても、二度と気安く話しかけんじゃねえぞ! 分かったな?」
深白「(気のない返事で)ハア……」
舌打ちする黒咲。
黒咲「(ドスを利かせ)てめエはよ、痛い目見ねえとわかんねえか?」
シスターの1人が警官を連れてやってくる。
シスター「おまわりさん! あの人です」
警官、黒咲に近づき、
警官「そのご婦人から離れなさい」
黒咲、警官の顔面を殴りつける。
地面に尻もちをつく警官。駆け寄る深白。
深白「大丈夫ですか?」
警官に近づく黒咲。
深白が、警官をかばいながら、黒咲を見上げる。軽蔑の表情。
黒咲、嬉しそうに微笑み、背中を向ける。
どこかへ歩いていく黒咲。
◯キャバクラ・内(夜)
キャバ嬢たちと楽しそうに酒を飲む若いヤクザたち。その中にヤクザA・Bも。
ヤクザB、両脇にキャバ嬢をはべらせ、
ヤクザB「いやあ、黒咲のアニキ、最高っスよ。一生アニキについていきます」
黒咲、ソファで1人酒を飲んでいる。
黒咲「おれのおごりだ。好きなだけ飲め」
ヤクザAが顔を真っ赤にして、フラつきながら黒咲の前にやってくる。
ヤクザA「アニキぃ。今日はご機嫌ですね。何かいい事でもあったんスか?」
黒咲「(嬉しそうに)まあな」
ヤクザA「アニキ、ちょっと聞いたんスけど、父親をバットで病院送りにしたってマジっすか?」
黒咲「んん? あア、ホントだよ。うちの親父がよ、ひでえヤツでおふくろにいつも暴力をふるってよぉ、その日は親父がひどく酔ってて、おふくろが殺されちまうんじゃねえかって思ったから、バットで殴ってやったのよ。後悔はしてねえ」
ヤクザA「お袋さん、大変だったんスね」
黒咲「ホント、サイアクの親父だったよ。機嫌が悪いと、やつあたりにおふくろの手に根性焼きなんてしてよォ……」
黒咲、自らの手にタバコを押し付ける真似をする。
◯フラッシュ・駅前の道
深白の根性焼きの火傷がある手。
火傷をもう片方の手で隠して、悲しそうに笑う深白。
◯キャバクラ内(夜)
タバコを手に押しつける真似の姿のまま、固まっている黒咲。
酔いがさめ、顔が白くなっている。
ヤクザAが心配して顔を覗き込む。
ヤクザA「……アニキ、大丈夫スか?」
黒咲「……そんなつもりじゃなかったんだ」
黒咲、ソファから立ち上がり、酒のグラスを床に叩きつける。
グラスが割れる音。
ヤクザとキャバ嬢が一斉に黒咲を見る。
黒咲「おまえら、今夜はこれで終わりだ」
黒咲、苦痛に耐えるような表情。
◯修道院前・道(夜)
離れた場所から修道院を見ている黒咲。
通路の向こう側から何者かが歩いてくる。路地に隠れる黒咲。
2つの影が修道院の方にやってくる。
深白の声「あの、ついてこないでください」
男の声「いいだろ? 遊ぼうぜ?」
黒咲、曲がり角に隠れて、道を見ると、深白が男につきまとわれている。
男「アンタ、いつも駅前で募金やってるだろ? オレ、アンタのファンでさ」
男、深白の手を引く。
深白「やめてください。困ります」
男「いいじゃねえか。少しくらいよぉ」
路地に隠れて黙って聞いている黒咲。
深白「警察よびますよ?」
男「この近くに交番ねえだろ?」
深白「じゃあ大声をだします。きっと、どなたか優しい人が助けにきてくれます」
黒咲、イライラした様子で頭をかく。
男「そんな人が都合よくいるかな。だしてみろよ」
男、深白の服をはぎとろうとする。
深白「(か弱く叫んで)きゃあっ!」
黒咲、拳を強く握りしめる。
黒咲「(ツラそうな表情)」
深白「(蚊の鳴くような声で)や、やめて……」
男「(嬉しそうに)そんな小さい声じゃ誰も助けにきてくれねえぞ?」
黒咲、壁をこぶしで叩く。
大きくため息をつく黒咲、憑き物の落ちたような顔。
黒咲、路地を出て行く。
/了(20枚)
初稿を読んでくれた立岡くんのおかげでだいぶ修正しました。
授業の発表で
最後の葛藤がまったく分からんって言われたんですけど、
さすがに全く分からんってことはないと思うんだよなあ。(いやおれが悪いのか?)
絶対、音読して発表するやり方の弊害だと思う。
だって他の人の発表も、ショージキ何言ってるかわかんないんだもん。
紙で読ませて意見交換したほうが絶対有意義だとぼくは思います。
2016/4/6引導
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます