見える距離と届かないキミと

島里タツキ

再会

 とある日曜日の昼下がり、僕は久しぶりの自由な時間だというのに目的もなく街を歩いていた。休日だということも相まって、どこもかしこも人でごった返していた。人混みの中を歩いているだけで体力が奪われていくような気がする。

 帰ろう。こんなことなら家で寝ていたほうがよほど有意義な休日になる。家路につこうと踵を返した僕の前に、彼女は現れた。

 

「ヒラタ君だよね……? 久しぶり。私のこと覚えているかな?」


 もちろん。覚えている。彼女は高校時代における最大の友人にして唯一の心残りなのだから。


「忘れるわけないよ。久しぶりだね、ヨーコちゃん。六年ぶりくらいかな」


 彼女と顔を合わせるのは高校の卒業式以来になる。それどころか連絡すらも一切とっていなかった。高校を卒業してから一年くらいの間は、連絡をとろうか悩むことが度々あったが、結局のところ決心がつかなかった。やがて、彼女のことを考える頻度は少なくなっていき、もう二度と会うことはないだろうと思っていたところなのだ。


「変わってないね。会いたかったよ」

 

 微笑を浮かべて彼女は言う。

 変わってない……か。僕は、会いたかったのだろうか。今となってはわからない。かつて連絡をとるかどうか逡巡したのは事実ではあるし、この邂逅は長年抱えてきたものを払拭する良い機会ではあるだろう。少しだけ考えて、僕はこう返した。


「変わらないものなんてないよ。ヨーコちゃんは大人っぽくなったね」


 すると彼女は『相変わらずだね』と笑った。何が『相変わらず』なのか自分ではイマイチわからなかったが、彼女が嬉しそうでよかった。


「せっかくだし、お茶でもしていかない? いろいろ話したいことあるし」

「そうだね。でも、あまり長い間はまずいかも」

「このあと、何か用事でもあるの?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、行こうよ。良いお店があるんだ」


 彼女に案内されて入店した喫茶店はランチを楽しむ奥様方で賑わっていて僕には些か不釣り合いな場所に思われた。


「お気に入りの店なの。週に三回は来るかな。あそこの奥の席がおすすめ」


 彼女に勧められた席は店内の奥まったところにあり二人でナイショ話をするのにちょうどよさそうに思われた。彼女との会話はなるべく人に聞かれたくないものになるだろうからうってつけだ。

 注文した飲み物が届いたので再会を祝すという体でちょっとした乾杯をして、飲み物に口をつける。僕はアイスコーヒー、彼女はアイスティーだ。からからに乾いていた喉に潤いが戻った。


 一息ついたところで、彼女が切り出した。


「――それで、今も?」


 やっぱり最初に話すのはそのことになるよな。

 僕と彼女が高校生のときに同じく有していた不思議な力。


「いや、今ではすっかり


 彼女と僕が対峙しているこの席だけが店内のなごやかな空気から乖離しているように思われる。けれどそれは不快ではなく、むしろ懐かしさと新鮮さが同居しているような居心地の良さすら感じていた。


 六年ぶりに過ごす彼女との時間が始まった。この対話の行き着く先はどこになるのだろうか。僕の胸の底では、ある種の不安と決意のようなものが燻っていた。


 

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