ココロ×花びら
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第1話 ロボットと花びら
「私は、ロボットだから……」
そう言って花凛は、自分の席に戻って何事もなかったように座った。
「どうした、圭。ぼーっとしてさ」
「ああ、消しゴムが転がってロッカーの間に入っちゃったから取ってやったんだよ」
「古川ね、可愛いんだけどロボットだろ。あいつ本当に感情ないよな。事故のせいだといってもあれじゃあ……。まあ何言っても傷付かないみたいだけど……」
古川花凛は、2学期からの転校生だ。昔の事故のせいで感情をなくしたらしい。
なんの事故かはわからないが、まったく表情の変わらない様子は、ちょっと怖い気がする。
でも、なんだろうコレ……
さっき俺が古川に消しゴムを渡した時、あいつは、ポケットからこれを出して渡してきたんだよな。
圭の手のひらには、花凛に渡された桜の花びらの形をした小さな白い紙があった。
考えても仕方がないので俺は、自分の席に戻って次の授業の準備をした……
放課後になってやっと授業から解放された。
まだ、高校1年の俺達は、呑気な物だった。
まったく来年の自分に怒られそうだ、いやそれが俺なのだからしょうがない。
早速、帰宅同盟の川嶋が誘いにきた。
「圭、今日例のファーストフードよってかねえ、紹介するからさ」
例のファーストフードは、大手ハンバーガーチェーン店の事だが、最近入った店員に川嶋のお気に入りがいるらしいのだ。
「紹介ってもお前の彼女じゃないだろ。それに、今日は、掃除当番だからな」
クラス委員長と掃除当番とはまったく運が悪い。できれば、適当に終わらせたかったのだが、腕まくりをして準備をしている彼女を見た俺は、がっくり肩を落とした。
俺の他には、野口(男)と古川が一緒だった。
委員長の仕切りで俺は、古川とごみを捨てに行く事になった。
ふたりで廊下を歩きながら俺は何気にこの前の花びらの事を聞いてみた。
「なあ、この前の花びらの事なんだけど……」
「お礼……、特に意味はない」
古川の言葉からは、感情は読み取れ無かった。
あれこれ聞かれるのが嫌なんだろうな、きっと……
それ以上、俺はその事に触れなかった。
焼却炉まで着いた俺達は、蓋を開けてゴミ箱を傾けた。
あれっ、花びらが……。
ゴミ箱の底の方に古川の作った紙の花びらが捨ててあったらしく、ひらひらと舞い落ちていた。
古川は、何も言わず、黙ってそれを見つめていた、その顔には特になんの感情も無かった。
気まずい顔の俺とは対照的に……
「いらなかったら捨ててもらって構わない」
教室に帰る時、古川が突然言った。
俺は、返答に困ったのだが結局わかった、とだけ答えた。
古川の表情は、やはり、変わらなかった。
川嶋たちの言うようにロボットなのかも知れないな、自分でも言ってたし。
掃除が終わって委員長が腕まくりを直している頃には、古川の姿はもう無かった。
「あいつ帰るの早いな、天才か?」
自分でも良くわからない事を言いながら俺は、教室を出て玄関に向かうため歩いて行った。
しかし、これでやっと帰宅部に参加出来るようだ。
部活が始まっている時間でもあり、校舎の廊下を歩いている生徒は、ほとんどいなかった。
こうしてあらためて見ると学校って長いよな、なんて感心していると廊下の端に何か落ちているのに気が付いた。
近くまで行って確認するとそれは生徒手帳だった。
「誰か落としていったな、どこのドジっ子だよ」
拾いあげて名前を見ると古川花凛とかいてある。
ページをパラパラめくった時、メモ書きが目についた、というか興味本位で見た。
白ーありがとう、青ー悲しい、黄ーうれしい……
何の意味かは、さっぱりわからない。
まだ、近くにいるかもしれない、そう思って俺は、近くの階段に向かった。
何だこれ!階段には、教科書やノート、文房具なんかがぶち撒けられていた。
近くにカバンもあったからカバンごと落としたか?
俺は、カバンに落ちてるものを適当に詰めて古川を探す事にした。
玄関に降りて、下駄箱を確認すると古川の靴は、まだあったのだ。
「あいつ、帰ってないな、だったら……」
俺が、屋上のドアを開けた時、やはりそこに古川はいた。
柵につかまって空を眺めていたようだ。
「はい、落し物、カバンごと落とす奴は珍しいぞ」
俺は、古川にカバンを差し出した。
「あと、お前、嘘つくなよな」
「何のことか、わからないけど」
カバンを受け取りながら古川は言った。
「ロボットは、怒ってカバンを投げつけたりしないんだよ、感情が無いなんて嘘だろう」
「やっと……見付けた……」
「答えになってないだろ」
「あなたが、初めて気付いた」
そう言って、古川はポケットから何かを取り出して俺に渡した。
"紙の花びらだった"
ピンク色って確か、古川の手帳に……
「ピンクは、特別な色。今日から私は、あなたのものになる」
それが、俺たちの関係の始まりだった。
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