第101話 お茶はあるのに?

「もお~、ヤオ君遅かったじゃないの。お客さん待ってんのよ、早く早く。」


『ら・えすぺらんさ』に着くなりロハスの奥さん、キャロが言う。

店のゴルノ村特産品コーナーには品物が無く、売り切れ御礼と近日入荷予定のチラシが飾ってある。

店の外には十数人の人が並び、販売は未だか未だかと待っている。

背負い籠から取り出す様に、綺麗にリボンが巻かれたハマグリの貝殻を取り出し検品してもらう。


「はい、とりあえず200個ね。じゃぁバレッタ、熊脂を売り始めちゃっていいわよ」


「はーい。お待たせしました。肌荒れによく効く熊脂の販売始めまーす。おひとり様3個まででーす。」


みなゾロゾロと店に入り、嬉しそうに熊脂を購入していった。


「うちのかかぁに言われてさ、熊脂買いに来たんだけど、ジャーキはねぇの?」


奥で検品を続けていたキャロの耳がぴくっと動いた。


「ありますよ~、今出しますね。おいくつですか?」


「おう、ピリ辛と普通のを三つ貰えるかな?」


検品が終わったジャーキを箱に入れて持っていく。

前に買った人だけでなく、話を聞いて欲しがっていた人も多いようで、ジャーキは熊脂と一緒に売れていく。


30分程で行列は消えたが、入荷の話を聞いた人がポチポチと訪れる。


「あぁ疲れたー、母さんお茶ー」


「自分で入れなさいっ。手伝ってくれてるユーリィと、ヤオ君たちにもね お湯なら沸いてるから早くね」


「あはは、慌ててお茶も出してなかったわね、ごめんなさいね」


キャロは笑いながら謝る。


「はいっ母さんお茶セット。 アン、落ち着いたらまたお茶しましょー」


っとお茶セットを出した。そして店の方にもう一つのお茶セットを運んで行った。


「もう、あの子ったら・・・

それでね、熊脂なんだけど、二週間で売り切れちゃったのよ、売り切れてからも来る人が多くてね

もっと高くしておけば良かったわ、まだ私も修行が足りないわね あはは

でもね、来たついでに他の物を買ってくお客さんも増えたから、良かったわよー」


「これから暖かくなったら溶けますし、そもそも暖かくなったら手荒れの人も減りますから

また寒くなる頃からですかね」


「ヤオ君、秋ごろにまた捕れる算段でもあるの?」


「多分・・・大丈夫だと思いますよ」


大丈夫も何もストレージに有るもんねっ ・・・

口には出さないがアンは八尾に同意する。


「あ、お茶いれマスね、あとこれ、ほんのお口汚しですが、作ってきまシタので・・」


と、カステラを取り出す。


「あらお客さんにそんな・・悪いわねーべるでちゃん ありがとうね」


「さ、お茶がはいりましたデス」


「お砂糖もこのポッドに入っているから好きに入れて頂戴ね」


八尾はストレート派なので紅茶には何も要れないのだ。


「あぁいい香りの紅茶ですね。」


「あらヤオ君、紅茶好きなの?

最近、この町でもちょっと流行りだしてね、ロハスが探してたんだけど、

中々入手出来なくてね、ようやくお試しで少しだけ手に入ったのよー」


「お茶の木は有るのに?紅茶は作ってないんですか?」


「えっ?これお茶っ葉から作ってるの?」


「確か蒸さないで発、ぐふっ・・げふげふ」


「あらやぁねぇっ、タケルったら咽たのっ?」


アンが横から小突いたのである・・・


「ねぇ・・・ヤオ君、もしね、作れるならゴルノで作って頂戴よ

作れたら幾らでも売るわよ。」


キャロの目はギラギラっと光っていた。

べるではカステラを切って店の方ででお茶しているバレッタにも持っていった。


「きゃーっ、ナニこれ美味しー」


店の方で黄色い声が上がる。


「べるでちゃん、この変わったシフォンケーキみたいなの、べるでちゃんが焼いたの?」


「そうデス。カステラと言いマス」


「この甘み・・・しっとり感は・・・ハチミツなのかしら? さすがゴルノ村ねぇ」


カステラのしっとりとした甘み。紅茶の旨みと渋みがマッチした至福の時であった。


・・・底のザラメ部分が・・・八尾は口は出さなかった。学習しているのだ。


・・・・

・・・

・・


「馬鹿ねっ、ホント馬鹿ねっ 作り方を商人に喋ったらダメじゃないっ このお調子者っ」


ホテルに向かう間、八尾はアンに怒られ続けた。


「いや、まさかさ、製法知らないとは思わなくてさ」


「話の流れから知らないの解るでしょっ もうっまったくっ」


「ともかく、帰ってからのお仕事が増えまシタね。楽しみデス」


「ヤオにぃちゃ、あの旨ぇお茶作れるんだか? そりゃ楽しみだぁ」


ミラは紅茶にいれた砂糖がお気に入りなのだが・・・


「でも流石ねっ、焼き加減と日持ちを考えたら売り物にはならないって、ちゃんと解ってるみたいじゃないっ?」


「オネェサマ、レシピは教えてしまって良かったのデスか?」


「多分ね、シフォンケーキがあるなら、どのみち作れちゃうでしょっ?

時間の問題よっ、だから恩を売った方がお得なのよっ」


アンも中々である・・・


・・・

・・・


ロハスが予約を入れていたおかげで、ホテルは前と同じ部屋が確保されていた。

部屋に入って荷物を解いているとドアがノックされた。


「アンー、あたしよあたしっ、バレッター。お待たせー」


「バレッターっ、直ぐ開けるわっ」


・・・


バレッタは店を手伝ってくれていた友達と共に訪れた。

職場の友人らしいが、ゴルノから来たと言う事と、先日のジャーキのお礼も兼ねてとの事だった。


「初めまして。ユリって言います。先日はジャーキありがとうございました。とっても美味しかったわ」


と顔をよく見ると何処かで見たような・・・


「あっ、葦田うどんのおねぇさんではありまセンか?」


「え?あらやだ、あの時の!」


前回来た時に寄ったうどん屋で働いていた娘さんだった。


・・・


べるでがお茶を淹れたので飲みながら話す。


「えー私はまだべるでちゃんと同じ17よー」


結構年上に見えたのだが、服と化粧が変わればまた見え方も変わるのである。

なんでも小さいころに一家でゴルノから更に川を上流に3日程行った所にあるヴェルホ村から越してきたと言う。

両親は流しの猟師なので普段はお婆さんと二人で暮らしているそうだ。

バレッタと同じく門で働き、終わってからは店を手伝っている。


そしてミラの話になると・・・


「へぇ、じゃミラちゃんを身請けするために与作って子が頑張ってんの?

うわぁロマンチックね。凄いわー。」


「ミラちゃん大丈夫よ。私の母のキャロだってね、父さんが身請けしたのよー、再来年なんてあっという間だわ」


「で、ヤオ君、お店は何処なのー?」


訊かれて困った。よくよく考えると正確なお店の名前はスタン爺さんから聞いていなかった。

八尾だけでなく、誰も・・ミラ本人も聞かされていなかった。


「あれ?たしか父さんが同行するから、明日の朝までには帰るって言っていたような気がするんだけど

さっき母さんと話さなかった?」


なので、明日の昼前にお店に伺う事にして・・・夕方まで南町にある雑貨や服の店を回ることになった。

なってしまった・・・

バレッタとユリが言うには、町の子や花街の若い子が気軽に行けるような価格のお店が並んでいる通りがあると言うのだ。


アンもべるでも、ミラまでも・・・

さっき紅茶が手に入るかも、となったキャロと同じようにギラギラとした目になっていた。


八尾は一人、遠い目をしながら・・・また買い物かぁぁぁぁ と・・・

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