第81話 キジバトと土鳩と

キジバトが木の上で縄張りを主張しているのか、メスを呼んでいるのか

盛んに鳴いている。

デーデー、ポッポポー

所謂『ででぽっぽ』である。


一度木に隠れると何処に留まっているのか判らないが、庭の木に居ることは声で判る。


「タケルっ?これさっきの鳩が鳴いているのっ?」


「うん、キジバトって言う種類の鳩。縄張り主張してメスにアピールしてるらしいんだよね」


「タケルさん、さっきの鳩とあっちの鳩は模様が違いますが、違う種類なのデスか?」


べるでに言われて、目を畑のほうにやると・・・・

カワラバトが十羽程、畦近くでしきりに地面をつついている。


「あぁ、あれはカワラバト、普通に土鳩って言われている種類だよ・・・

ん? あれ? あいつら昨日植えた豆喰ってないか?」


土鳩はしきりに土を嘴でほじって何かをついばんでいる。

昨日植えた豆だ。


土鳩は狩猟対象鳥獣では無いが、有害鳥獣駆除であれば捕獲出来る。

もっとも、こちらの世界でどうなっているのか、まだ読本を読んでない八尾は知らない。

兎も角、有害鳥獣なので駆除出来ることは確かである。


八尾はストレージから距離計とエースハンターを取り出す。

距離計は4倍のテレスコープとなっており、中央のマークに測距点を合わせてボタンを押すと

そこまでの距離がメートルで表示されるものだ。


距離は39メートルと出た。

見た目の距離感としては30メートル位なのだが、周りの環境により、人間の目は誤魔化されやすい。

八尾はこれを手に入れてから劇的にエアライフルの命中率が上がっているのである。


エースハンターを5回ポンプする。

8回ポンプで50メートルゼロインしてあるので、5回で40メートルならほぼスコープのクロス中央位に着弾するはずである。


八尾は辺りを見回し、畑に誰も居ないことを確認した。

縁側に寝そべり弾を込める。

指を台にして狙いを付ける。


鳩が餌をついばんでいると頭は上下に動く。

体を狙っても良いのだが、小さい肉が傷むのを嫌って、八尾は何時も頭を狙う。

鳩は十数秒に一回位、顔を上げて辺りを伺っている。

その時がチャンスだ。


八尾は端にいる一羽に狙いを定めた。


目を開き、瞳が瞼に掛らないようにする。

呼吸を絞り、動きを止める。


セットトリガをセットしてトリガに指を掛ける。


パシィッッッ


ポコンと言う音が一瞬の間で帰って来た。

鳩は羽を広げ突っ伏している。


他の鳩は気が付いていないのか、まだ餌をついばんでいる。


「次はあたしねっ。」


もぞもぞと縁側でポジションを直すアン。

なかなか良い位置が見つからないようである。


「オネェサマ、これを」


べるでは枕を持ってきた。

その枕を銃の下に置き、レストにした。


アンはスコープを覗く。

八尾がセットした8倍から12番まで倍率を上げる


鳩が頭を上げるタイミングを判断するのは結構難しい。

止めたと思ってもまたすぐ餌をついばみ始めたりするのだ。


パシィッッッ


音と共に一羽がパタパタっと羽を動かして・・・止まった。


数羽ほど、異変に気が付いて飛び立った。


残った数羽はキョロキョロと辺りを見回している。

が、また餌をついばみ始めた。


「タケルさん、逃げちゃうかもしれまセンが、弓で射っても良いでショウか?」


「べるでは弓でやるの?」


べるでは弓を構える。

八尾もその横でアーチェリーを構えた。


ヒュッ と言う音と共に矢が飛ぶ。

その音に合わせて八尾も矢を放つ。


べるでの矢は鳩の首を貫いた。


八尾の矢は鳩から10センチ位離れて土に刺さった。


「んー、タケルッ、ハンター試験はギリギリねっ」


既に鳩は居なくなっているが、アンも矢を放ってみた。

アンの矢は弧を描いて飛ぶ。そしてタケルの矢からこぶし一個離れた所に刺さった。


「ふふふん、慣れればざっとこんなもんねっ」


アンは鼻高々で言った。 

・・・狩猟で使うには威力が無さすぎであるが。


鳩を回収して、豆を喰われた所は新たに植えなおした。


夜は鳩を調理した。


頭と足を落としてから羽を毟って内臓を抜き、綺麗に洗う。

素嚢そのうには豆が大量に詰まっていた。


一度、熱湯につけて灰汁を取った後、水から炊いていく。

沸騰したら灰汁を引き15分位茹でる。

茹で上がた鳩の胸、モモ、手羽を外してからガラだけお湯に戻す。

そしてさらに煮込む。


小一時間経ったら出汁を研いだ米に入れて炊く。


モモと手羽は骨を外して肉を包丁で叩き、みじん切りにする。

そこに余っている出汁に入れて火にかけ、水溶き片栗粉を入れてとろみをつける。


鳩胸を手で割いて,炊けたご飯の上に乗せる。

そして、鳩あんを掛ければ完成である。


胸肉が余ったので、べるでは一度鉄板でローストして焼き目をつけたあと、スライスする。

そこにシヤルスクの町で買ったジャムをベースにしたソースを掛ける。


山菜のお浸しと並べると綺麗な一品に仕上がった。


アンもヤマメを焼いている。

塩はヒレだけに付けられている。

身に塩を振る代わりに、腹に味噌が詰められている。


そして豪華な夕食を食べ終わり、お茶が入るとアンが喋りだす。


「ねぇっミラの事なんだけど・・・」


アンは言いにくそうに、でも言葉を選んで言う。


「タケルがねっ、ミラの身請け代を出すと言うのは間違ってると思うのよっ」


「えぇ?何を突然、てか何でよ?アンはミラがこのままで良いと言う訳なの?」


「そうは言ってないわよっ、最後まで人の話を聞きなさいよっ」


「タケルさん?与作とミラさんってどう思いマス?」


「与作とミラ?・・・そう言えば、いつも一緒に居るよなぁ」


アンは頭を抱えた。べるでもこめかみに手をあてている。


「あのねっ・・・」


アンは口をパクパクさせながらも言葉を飲み込んだ。


「ええとデスね。タケルさんが身請けすると、単純にミラさんが自由になると言う訳では無いのデス。

つまり・・・第三夫人としての登録となってしまいマス」


タケルは考えた。


「じゃぁ、じゃぁさ、ルイか与作に資金を渡して身請けしてもらえば・・」


「それも駄目よっ、この村は去年の不作で年貢を一部免除して貰ってるのよっ

そんな余剰金がある訳無いし、有ったら年貢を追徴金付きで取られるわよっ」


「じゃぁ一体どうしろって言うのさ」


「与作が稼げば良いのよっ」


「与作が?どうやって」


「タケルさん、与作は今駆除隊員デスよ?」


「・・・そうかっ与作が駆除すれば報奨金が出るか!」


「そうよっそれが正解よっ」


「タケルさん、恐らく与作が2年頑張れば、報奨金と獲物を売った金額で何とかなると思いマス。」


「よしっ、じゃぁ与作は明日から特訓だなっ」


八尾は何処から教えたら良いものか思案しつつ眠りについた。

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