第3章 七転八盗のシークレットガーデン PART13

 


  13.



「何とか二人を繋ぎ合わせることに成功したわね」


 休憩所で零無は開口一番にそういった。


「強引なやり方になってしまったがな。だがどうする? 本当にあの二人は結婚できるのか?」


「……どうでしょうね」


 零無の反応は薄い。


「本当に難しい所だけど、二人の気持ちが固まるのを待つしかないわ。ウェディングプランナーとしてはお勧めはできないわね。何しろ、参浦君は……そういう人ではないのだから」


 やはり彼女には嘘だとわかっているらしい。八橋に合わせた結果、彼がとった行動だと理解しているようだ。


「まあ、そうだな」


 修也は小さく頷いた。


「彼らに共通するのは趣味と性格だ。一番大事な部分の一つでもあるが、それだけならで終わることもありうる」


「別の要因がもう一つ必要ね。彼らの絆を深める項目があればいいけれど」


 

「ここでよかったかな? ちょっと失礼させて貰うよ」



 突然、参浦がドアを開けて入ってきた。


 無言で零無を見ると、彼女は静かに頷いていた。どうやら彼女が呼んだらしい。


「改めて訊くけど……参浦君、あなたは本当に八橋さんと結婚する意志があるの?」


「そうだね、八橋さんなら大丈夫な気がするよ」


 気の弱そうな返事に参ってしまう。確かに彼女の性癖を聞いてしまえば絶対の自信を持つことはできないだろう。


 

 ……ここでいってしまっていいだろうか。


 

 一つの疑問が未だ頭の中に残り続ける。この問題は対処しなくてもいいかもしれない。だが未だ燻り続けていることも事実だ。


「なあ。一つ尋ねてもいいか?」


「何よ、改まって。ここで遠慮しても仕方ないわ」


「そうだな……」


 修也は小さく空咳をした後、二人に問いかけた。


「八橋はにレズなのか?」


「何をいってるの? 彼女自身がそういってるのだからそうでしょう」


「ああ、その通りだ。だがお前も知っている通り、俺は用心深い。八橋がレズだという根拠はない」


「まあ、そうね。参浦君だって実際には違う訳だし……」


「そうだね。僕は女性が好きだけど、特別な人が今まで現れなかっただけで……」


「そうだ。だが参浦が本当は同性愛者かもしれない。なら八橋だって、確かめようがないってことだ」


 八橋真琴は自分がレズだと発言しただけで、その意図は確かめようがない。別にこの婚活イベントで嘘をつこうが、政府には関係がない。何か他の目的がある可能性だってある。


 七草が好みだといっても、そのすらも演技の可能性がある。参浦が取った行動のようにだ。


「確かに裏づけを取ることは難しいわ。だけど彼女の真意を探っている時間なんて残ってないわよ。もしかしたらバイ(両性愛者)の可能性だってある訳だから」


「そうだな……今、考えるべきはどうやって二人を取り持つかだな」


 頭の中で2人のゴールポイントを探り出す。だがこれ以上、彼らを繋ぎ合わせる方法は思い浮かばない。


「参浦はどうして、八橋とならうまくいくと思ったんだ?」


「僕が今まで出会ってきた人は、皆、肩書きを大事にする人ばかりだった……でも彼女は純粋に自分の仕事に誇りを持っているからね」


 参浦は思い出すように述べていく。


「彼女を始めて見た時は、まだ新人でとても人の上に立つような感じではなかったんだ。それでもあの立場に上がるためにはそれなりの努力があったんだと思うし、何より九条支配人がその力を認めたのは一流だということだよね」


 確かに全ての責任者を決めるのは支配人の権限だ。ウェディングプランナーとしての力量を見るためには売上高がもっともわかりやすく、数字でしか見られていないという自負がある。


 だが彼女はどうなのだろうか。インド人とのハーフでありながら、数々のコンクール歴はとっているが、それはアマチュア時代だ。多忙な九条が実際に見て、選んだようには思えない。


「八橋は料理の実力だけで、今の地位に辿り着いたと思うか?」


「いや、それはあり得ないわね。ここの料理人だけで三桁の数字を超えているわけだし、誰かが推薦しない限り、候補にすら上がらないわ」


「壱ヶ谷君も八橋さんの推薦はしていないと思う。だということは……」


 エリアチーフの壱ヶ谷でもなく、総支配人に辿り着くためには……NO.2のデューティーマネージャーの御眼鏡に適ったのかもしれない。


「八橋はインドにいたんだよな?」


「そうだね。彼女の経歴を見てもそれは正しいと思うよ」


 休憩室のデータベースを眺めながら、八橋が日本に来た理由を探る。わずか3年で料理長としての肩書きを得ている。実力だけでは難しい昇進度合いだ。


「父親が日本人だとしても、そのまま永住できるだろうか? 後ろ盾があるからこそ、彼女はここにいるんじゃないか?」


「そうかもしれない。仮の話だけど、シロウさんが彼女を保護したとして、それが何の関係にある?」


「シロウさんは結婚していないよな?」


「ええ。それがどうしたの?」


「なぜ九条支配人がこの婚活会議に参加していて、シロウさんはしていない?」


「それは司会として代行したんじゃないの?」


「司会……別に他の人物だとしてもいいだろう。仮に責任者の会議を取り纏める者でなければならないというのであれば、他にも上のクラスはいる」


 何かが頭に疑問点を与え続けていく。この会議の疑問点は数多く存在する。だがそれをうまく取り纏めているのは司会であるシロウだ。


 だからこそ俺達は迷いながらもお互いにいいカップルを探る道を選んできた。


「まあ、そうね。だけど今はそんなことをいってる……」


「場合じゃないのはわかっている。だからこそだ。ここで選択を誤ると、人生を棒に振ることになる。それはお前も同じだろう、零無?」


「四宮君。どうしたの? 何か問題があるのかな」


「ああ、問題だらけだ。ああ、そういうことなのか……」


 頭の中にある一つの考えが浮かんでいく。


「参浦、質問がある。先ほど答えて貰ったものよりも……だ。お前は八橋と本当に結婚する気はあるのか? 絶対に幸せにできる自信があるか?」


「四宮君、どうしたの?」


「参浦、答えてくれ……俺達はとんでもない勘違いをしていたのかもしれんぞ」







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