第3章 七転八盗のシークレットガーデン PART10



  10.



「四宮君、ホルモンってどういうこと?」



 参浦の声を受けながらも周りを見渡していく。



「ホルモン、それは……」



 ……八橋のいうことが正しければ、必ずこの中に男性の同性愛者が紛れ込んでいるはずだ。


 

 今の所、心当たりはない。自分を除き男性陣は3名、このうちの誰かが同性愛者である確率が高い。


 八橋との適合率を考えれば、それしか方法はない。



「四宮君、君、まさか……」



 二岡が声を上げながら席を立つ。



「ホルモンってことは……あれが使えないっちゅーことか?」



「まあ……そういうことになるな?」



 修也が曖昧に頷くと、二岡は足元をおぼつかせながら椅子に深く座り直した。



「そうか、それは辛いな……あれが使えんかったら、確かに男ではいられんな……」



 ……そっちの意味ではないが。



 確かにそそりたつものが異性に使えないということであれば、それは立派なホルモンでしかない。だがそういう意図で使ったわけではない。



「それはないはずよ、二岡君」



 零無が二岡に答えている。



「生殖器が使用できないのならこの場には呼ばれてないはずよ。子供を作ることが最優先課題なのだから。この場にいるということはちゃんと使用可能なはず。条件にもきちんと書いてあるわ」



 ……冷静に分析し過ぎだ、ロボットか!?



 心の中で突っ込みをいれるが、声には出せない。女性としての恥じらいすら感じさせない彼女に敬意すら覚える。



「すまない、言い方が悪かったようだな。この中に男性の同性愛者がいるといいたかったんだ。八橋が同性愛者であれば、その対を為すものがいるはずだと俺は考えている」



 改めて周りを探るが、際立った動きはない。



 ……作戦は失敗か。



 再び算段を練っていく。いきなりこの中に同性愛者いるといえば、ターゲットは身を固くして隙を見せないようにするだろう。自分なりに標的を絞り込むために使ったのだが、効果は薄かったようだ。


 まさかあれがフニャフニャだと捉えられるとは思ってもみなかったが、二岡ではない、という結果が得られただけよしとするしかない。


「ちょっとしたジョークを交えたつもりだったんだ。気にしないでくれ」


「全然面白くないわ。冗談は顔だけにしてくれる? 男からもモテないホモ宮君」


「そうか、悪かったな、女性からも怖がられるレズ無さん。お前も冗談は性格だけにして欲しいんだが」


「あら、面白いことをいうわね」


 零無が満面の笑みでこちらを見る。だが目だけはいつも通り笑っていない。


「あなたのそういう言い回しは本当に理性的で頷けるポイントも多いわ。だけど、さっきの発言には一つだけがある」


「何だ?」


がその同性愛者である可能性を言い忘れているわ。発言することであたかも自分が違うという風に見せているけれど、あなたもその中に含まれているわよ」



 ……目ざといな、本当にお前は協力者なのか?


 

 零無に敵意を寄せるが、何も動じない。発言したことで、主導権を握ろうとしたが、まさか自分が追い込まれるとは思っていなかった。ここで答えなければ俺自身がそのターゲットになってしまう。



「俺は違う、ということを説明することは難しい。だが人間が嫌いだということを証明しよう。人間嫌い=男女嫌い、という説明でいいか?」


「いいえ、その必要はないわ。ごめんなさい。あなたの思考・態度そのものが人間嫌いだと皆、わかっているから必要なかったわね」


 零無の返答に誰もが頷いている。


「そうやな。別に四宮君が仮にそうやったとしても、面白くないわ」


「いいんじゃない? あんたは男同士の方がうまくいくんじゃない? 応援してるわ」



 ……え、何この状況。試合に勝って勝負に負けたみたいな……。



 二岡と五十嵐に責め立てられ心の中にわだかまりが残る。だがこれ以上、論争に巻き込まれることはないらしい。


 傷跡を残しながらも主導権は得られた。よし、今こそ発言しよう!



……ここで探るポイントは二つ。


男性の同性愛者はこの際、関係ない。実際にはいなくてもいいのだ。いる可能性を残しつつ、八橋を別の男性へと誘導していけばいい。



……八橋に合わせる男性、それは――。



「なあ、参浦。質問してもいいか? お前は男と女、どっちが好きなんだ?」


「え? そりゃもちろん……」


「もちろん……男だよな?」


「ええ!?」



 ……頼む。ここは合わせてくれ!



 参浦自身にその兆候はなかった。だがここは八橋とうまくいって貰うためには捏造しなければならない。


「……参浦、これは大事な質問だ。ここでお前の選択によって未来が変わる、大事な場面だ。お前は…………男が好きだよな?」



 ……八橋のために、男を捨ててくれ!



 参浦の八橋への思いを確かに感じていた。ここはなんとしてでも次のステップに行かなければならない。そのためには鍵が必要なのだ。


「えっと……その……僕は……」


 三浦は迷いながらも答えを出せないでいる。ベルボーイ、空気が読める男だ。そのためには今の質問がどういう意味かすらわかっているはず。


 彼がこの空間で最良の相手を選ぶために、ここで頷くしかない!



「四宮君、黙っててごめんね。実は僕が……その……ホルモンなんだ」

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