第2章 九嫁三伏のデッドヒート PART8



  8.


「……ほう、面白い。ただの金星風情のお前が俺に喧嘩を売ろうというのか?」


 

 ……怖ええ! やっぱりオーラは伊達じゃないな。



 九条の睨みを受けながらも、敢えて目を反らさない。ここで弱気になればこの条件は成立しないからだ。


「もうすぐ二次投票に移る時間です。シロウさんは各一人が持ち点1とする多数決を取るといっていました。ですが支配人の投票だけはとするのはどうでしょう? あなたがパスにいれればそれだけで過半数に達します。


 つまり他の誰かが一人でもパスにいれればあなたの勝ちとなり、支配人を除く9人でシャッフルすることを断言します」


「ふん、貴様は何様だ? 俺様にルールを押し付けようというのか?」


「違います。体裁の問題です」


 修也は言葉を選びながら続ける。


「これは一生を決める問題です。もしここであなたの命令だけで皆、結婚相手を選べば復讐に合う可能性だってありますよ? 恨みも積もれば会社に損害を与えかねません。ですがここで一勝負して、その結果あなたの勝ちとなれば誰も文句はいわないでしょう」


 無茶な要求は承知だ。だが何としてでもここは九条の条件を変えなければ話にならない。


「なるほど。そこで俺様と勝負がしたいと?」


「そうです。俺達に一つ、チャンスを下さい」


 もちろん九条はここで勝負に乗らなくてもいい。しかし彼の性格からいって間違いなく乗ってくる自信がある。後は彼が頷くまで粘るだけだ。



「……九条様、ご決断を。私からもお願いです。もう時間があまりありません」



 零無も容赦なく言葉を選びながら責め立てる。


「このままだと何もいわずにあなた自らもシャッフルの候補者に選ばれます。どうか、お願いします」


「…………」



「「支配人、どうかお願い致します」」



 陸弥も七草も同時に彼に頭を下げる。シャッフルだけは譲れないだろう。そんなことがまかり通る会社に今後も身を委ねることはできない。


「どうか、ここはわたくし達の意見を汲んで下さいませ」

「わたしからもお願いします。どうか、権利だけでも」


「……ああ、わかったわかったっ!」


 九条は目を閉じて豪語する。


「……いいだろう、2人のプランナーの案に乗ってやる! だが俺様にも条件がある」


 九条は口元を歪めながら告げた。


「もしその勝負に俺様が勝てば、ここにいる皆、俺様の会社で一生働いて貰う。部署移動も全部、俺様が決める。それでもいいのか?」


 会場にいる九条を除く全員が震え上がる。司会のシロウもだ。それは事実上、彼の元で働く奴隷となれといっているようなものだ。そんな条件を飲んでいいはずがない。


「いいでしょう。私はその案に乗ります」


 零無が間を空けるまでもなく答えた。


「強制結婚をするくらいならどこで働こうが一緒です、各責任者の方々、ご決断を」


 零無が答えると、他の者もしぶしぶといった感じで頷いていく。


 確かにここは正念場だ。誰一人として投票権を失わせるわけにはいかない。


 零無をちらりと見る。彼女の意思は固まっているようで九条を捉え離さない。彼女が尻ごみすればあっとういう間にこの刃は崩れそうだ。


「わたしも投票します」


 七草は力強く声を上げた。


「シャッフルで結婚相手なんか決められません。私は、私の意志で決めます」


「わたくしも同じ気持ちです」


 七草と陸弥が同時に頷く。彼女らが頷けば皆、黙ってついていくしかない。



「では最後の投票に移る前に休憩に入りましょう……」



 シロウの合図と共に会場の灯りが一時消えた。


「皆さん、誰を選ぶか決めておいて下さい……。これは人生を左右する大きな決断になることは間違いありませんから……。それではご準備に入るまで、閉館させて頂きます……」

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