魔道剣鬼
黒河 剣斗
序章
鬼の狂笑
陥落を目前にした王城の廊下を一人の男が早足に歩いている。
平時ならば精鋭の近衛騎士が詰めるであろうこの廊下に、今はこの男が一人。
男はこの王城に務める近衛騎士に支給されるプレートアーマーを装備しており、歩くたびに重厚な鋼鉄の擦れ合う音が鳴った。その胸元には近衛騎士隊の隊長であることを表わす紋章が刻まれており、男がこの国の軍で最高の権力を持っていることを誇示していた。
しかし、男の様相は奇妙であった。今にも戦場に赴こうかという出で立ちでありながらも、その足は戦火の渦中にある大広間より離れ、その正反対に位置する王室へと向かっていた。
これだけならば、王に何か進言をしに、もしくは劣勢の報告に向かう家臣と見て取れたかもしれない。その早足にも納得がいく。だが、それらを覆しうるほどに奇妙に感じられることが一つあった。男はアーマーを装備しておりながらもヘルムを装備しておらず、その素顔を一揺れの風もない廊下の空気に晒しており…………。
――その表情は笑っていた。
自国が攻められ、最早陥落寸前というこの状況にありながら、男はその顔を邪鬼に見紛わんとするほどに醜く歪ませ、笑っていたのだ。
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