秘事は睫

宇津井あきこ

第1話 




別れてから気づいたが、高校時代付き合っていた彼は最低だった。

彼は女好きで有名で、周りからはあんな奴やめとけとよく言われた。

けれど私は、男の人なんてみんなそんなもん、と半ば意地になって付き合いを続けた。

付き合って7ヶ月目、卒業間近の2月のこと。


彼が


『友達の連れが妊娠したんだけど、育てられねぇし、堕ろす金もねぇって言ってる。』


お金を貸してくれないか、と言って来た。

今ならば自分には関係ない人にお金を、しかも堕胎費用として貸すなんてありえない、が。


そのときは


『友達のことまで考えて、なんて素敵な人!』


とさえ思っていたので、貯めていたバイト代から10万円を彼に貸した。


本当にバカだった。


『まじで助かるわ~』


果たして誰がどのように助かったのか、ご想像にお任せする。

だだ彼はなぜかその翌週から学校に来なくなって、ついに卒業式にも姿を見せなかった。もちろん連絡もつかない。

よって強制自然消滅。





「あ~彩乃あやの!こっちこっち!」


私は地元駅前の居酒屋にいた。親友のサヤカから、高校の同窓会があると聞き参加することにしたからである。

酔っぱらいのサラリーマンや大学の飲みサークルと思しき集団の間を通り抜け、声の主のほうへ進む。広い座敷席には、もう10人弱集まっていた。成人式の後の同窓会以来なので約3年ぶりの集まりだ。


「久しぶりサヤカ。元気にしてた?」


「あんたとはこないだ飲みに行ったでしょ。忘れたの?」


忘れっぽいのと無関心は昔からか、とサヤカが言う。ちょっと呆れられているのかもしれない。

とりあえず席について、生ビールを注文した。そして、周りを見渡してみる。

どの顔も懐かしいものばかりで、高校時代に戻った気分になる。


みんな元気そうで嬉しいが、今日の目的はまだ達成されていない。


「…もしかして、新沼にいぬまのこと?」


サヤカが耳打ちして来た。

新沼とは、高校時代に付き合っていたあの最低な彼のことである。

私は彼が参加することを幹事であるサヤカから聞いて知っていた。だから参加したのだ。


「MINEしてすぐ出席の返事が来たのに、昨日連絡来て急に用事ができて行けないってさ」

「それと彩乃早くスマホにしてよ、個別に連絡すんの面倒だからさ」


私を除く元クラスメイト全員がスマホの『MINE』というアプリでグループチャットをしているらしい。

一斉送信ができるのでとても便利らしいが、私はガラケーで不便がないのでずっと使い続けている。


「うん、気が向いたら」


なんだ、来ないんだ。

参加した意味がなくなってしまった、まだビールも来ていないのに。

せっかくお金を返して貰おうと思ったのに。


—それから



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