誰が為に鈴は鳴る
たれねこ
第一部 僕とキミ
01
リンッ――
小さな鈴の
そんな僕がキミの事を再び強く意識しだしたのは高校生のときだった。
今はただ 思い絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな
それは古文の教科書に載っていた自分と同姓同名の平安時代の歌人の和歌だった。
この歌は
僕とキミの間にはそんな
そして、僕はあと数日もしないうちにこの町から出て行く。大学進学を機に一人暮らしをすることになったからだった。きっともうこの町に戻ってくることの方が少ないだろう。
そんな僕のこの町での最後の気がかりはキミとのことだった。できることならもう一度キミに会って話したいと願っていた。
なぜなら、きっとあれが僕の初恋だったから――――。
僕がキミに出会ったのは小学校の入学式の前日だった。
テンションが上がりすぎて、家で落ち着いていられなかった僕は、親に黙って家を抜け出して散歩に出かけた。山と田畑に囲まれた
鼻歌交じりに歩き、祖父の管理する畑を抜け、道路に行き当たる。そして、僕は白線の前で両足を
車が来ないと分かっているが、明日から小学生という一段成長する自分を誇るように、右見て、左見て、もう一度右を見て――。
遠くまで見通せる直線道路で念入りに安全確認をし、車が走ってこないことを確認。僕は手を
木の棒で雑草を叩きながら気持ちはジャングルを探検する隊長気分。道なき道を分け入っていくと、古い
こんなところに神社があることを今まで知らなかったし、聞いたこともなかった。僕は辺りを見渡しながらおそるおそる鳥居をくぐる。
そして、匂いの正体が
その匂いはどこか去年亡くなった祖母を
しばらく香りを楽しみながら花を見上げていると、離れたところから、サーッ、サーッと何かを
音の方に近づいていくと、社に続く
「こんにちわ」
僕が
「うん。キミのことだよ。ところで、なんで掃除してるの?」
「これは私のしないといけないことだから」
「ふーん、そうなんだ。ねえ、あの花はサクラ?」
僕はピンクの花をつけた木を指差しながら尋ねる。
「あれは桃の花だよ」
「へー。いい匂いだし、きれいだね」
僕が女の子の方に視線を戻すとそこには誰もいなかった。僕は不思議に思いながら辺りを見回し、さらに境内を一周したがさっきの女の子はおろか誰一人いる気配はなかった。
しかしながら、その疑問以上に知らないもの見つけた喜びや嬉しさが勝り、僕は軽い足取りで家に帰った。そして、あの神社を自分だけの秘密の場所にしようと決め、家族には内緒にすることにした。
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