復活


「あり得ない」


 ゼノス自身の放った言葉で、脳は埋め尽くされていた。頭部が破壊され再生できる人間などいない。いや、どんな生物であっても、あり得ないのだ。それは、完全かつ不可逆的な真理だ。では、なぜ? 実はアシュが別人だった? いや、ヤツの実力からそれはない。頭部が破壊されていなかった? なにを。自分の目で確認したではないか。なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ?


「……もう少し演技を続けたかったが、君が、あまりにも下品な振る舞いをしていたからね。紳士である僕には見ていられなかった」


 先日の似たような振る舞いを全部棚上げにして。


 白髪の魔法使いは言い放った。


「アシュ!」


 ゼノスが固まっている隙に、レイアが側に駆け寄る。


「やあ、裏切り者君」


 蒼々たる皮肉を込めて、満面の笑みで答える。


「ぐっ……でも、なんで……」


「君たちが愚かにも勝利を確信して余韻に浸っている間、僕は切断された手でせっせと再生の魔法陣を作成していたわけだ」


 アシュはこともなげに答える。


「そんな……頭部だって破壊されたのに……」


「まあ、少々特異な体質だってことは認める。しかし、人間は誰でも変わっていることはある。僕は個性として尊重すべきだと思うがね」


「……」


 こ、個性ではないでしょうと、金髪美少女は思う。


「まあ、そんなことはいい。君も思い出したように、僕も思い出したんだ。いいかい?」


 そう言って。


 アシュはレイアの手を握って耳打ちをする。


「えっ……でも、ゼノスを一人で?」


「仕方がないじゃないか。隷属魔法をかけられて君はヤツに抵抗ができない。僕が……やるしかないのさ」


 そう言ってゼノスの方に身体を向ける。


「わかった……アシュ」


「うん?」


「あの……これが終わったら……話したいことがあるの。だから、必ず生き残って」


「……わかった。約束だ」


 レイアは安堵した表情を浮かべて走り出し階段を駆け上っていくが、ゼノスは、一瞥もくれずに立ち尽くしている。


「止めないのかい? まあ、君が彼女に視線を向けた瞬間、僕は君を攻撃するがね」


「化け物……」


 そうとしか表現がなかった。


 初めて心からの恐怖を感じ。


 ゼノスはそう言い放った。


「失敬な。まあしかし、君が頭部を消滅させることで勝利を確信するとは思っていたよ。ヘーゼン先生の助言を無駄にしたね」


「……なぜそれを?」


「リアナの情報はあの方から受け取ったんだろう? 僕を殺そうとするのではなく封じようとしたら君の勝ちだった。ヒヤヒヤしたよ」


「……」


「まあ、確率はかなり低いと考えていたがね。君は古いタイプの研究者だ。完全不可逆的な事実を覆すような思考には及ばない。いや、及ぶことができない」


「……黙れ」


 ゼノスはボソリとつぶやく。


「ククク……もはや君は神だね。君の信じる事実の前では、稀代の魔法使いヘーゼン=ハイムですら愚物さ」


「……黙れええええええええええっ!そこのリアナを殺すーー」


<<果てなき業火よ 幾千と 敵を滅せ>>ーー漆黒の大炎パラ・バルバス


 ゼノスが言い終わる前に。


 アシュから放たれた巨大な炎は、彼女の模造品レプリカを消し炭にした。

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