戦い
魔刀『アスラール・エレ』。レインズが腰に携えているのは、魔力の籠った剣である。一方、デルタも光魔法の最高峰。いかに、怪悪魔とはいえ一瞬にして殺られることはない。
しかし。
怪悪魔に繰り出す鋭い斬撃も、絶大な威力のある光魔法も、ことごとくいなされる。まるで、子どもをあやすかのように。まるで、ショーを楽しんでいるかのように。
「クエエエエエエッ……」
余裕の表情を浮かべるロキエルに、間髪入れずに攻撃を繰り出す二人。あたっている斬撃もある。喰らわせている魔法もある。しかし、怪悪魔には、何一つダメージを与えられていない。
「「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」」
「気は済んだかね?」
息をきらしながら下がるデルタとレインズに、アシュは立ち上がりながら尋ねる。
「はぁ……はぁ……尻尾を巻いて逃げたのでは?」
「戦略的撤退と言って欲しいね。君たちのような戦力は貴重だ。攻略方法を練って、タッグを組めば、倒せる可能性が少しは上がるだろう。勝つための撤退だよ、受け入れたまえ」
「……嫌です」
デルタは答える。
「駄々をこねるんじゃない。君は子どもか?」
「私たちが退いている間に、何人の人が死ぬんですか?」
「……少なくとも千は超えるだろうな。しかし、その百倍を超える人を救えるかもしれん。まあ、僕は生徒たちさえ助けられれば別にどうでもいいがね」
「運が悪かった……また、そう言うつもりですか?」
「……」
「救えなかった命に……私はなんて言ってやればいいんですか?」
「……呆れたバカ弟子だよ、君は。ミラ!」
「はい」
「彼らを補佐したまえ。僕は、対策を考えてみる」
「かしこまりました」
そう言って、ミラはレインズとデルタに並ぶ。
「アシュ先生……」
「勘違いするなよ。残念ながら、君たち抜きで怪悪魔を相手に勝つ可能性と、一時撤退して僕とミラだけで戦う可能性を天秤にかけた結果、少しだが前者が勝った。それだけのことだ」
「……ありがとうございます」
デルタはボソッとつぶやいた。
3人での攻撃は、華麗かつ、多彩であった。デルタの繰り出す魔法に、見事に合わせるミラ。怪悪魔から繰り出される攻撃をレインズが防ぐ。攻防置いて、3人の連携が怪悪魔に勝っていた。
「まったく……恐ろしい悪魔だね」
アシュは大きくため息をつく。
もて遊んでいる。
圧倒的な実力差がありながら、やられたフリをして楽しんでいる。実際に、ダメージはほとんどなく、実力の半分ほどしか出していないだろう。ロキエルに勝つ可能性。それを、3人が耐えている間に。3人に興味を示している間に見つけ出さなければいけない。闇魔法使いの脳はかつてないほど早く動いていた。
「……少し集中する」
闇魔法使いは、そう言って、
静かに目を閉じた。
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