出会い


 陽が落ち。


 闇が空を包んでもなお、ヴェイバール繁華街は魔街灯で光り輝き、活気に満ち満ちていた。


「ほぇー、夜なのに明るいですね」


 ミラがキョロキョロあたりを見渡す。


「ふっ……僕の10年前に発明した魔街灯。この、バージスト聖国にも普及し始めたようだね」


 これ見よがしに自慢するナルシスト魔法使いだが、実際、大いに誇っていいほどの研究成果である。アシュは尋常じゃないほど大陸魔法協会の目の敵にされているが、それでも、革命的発明として、満場一致で最優秀賞に選ばれるほどのものだった。


「そんなことよりもアシュさん」


「そ、そんなこと!?」


「ほらほら、これできます?」


 産業革命が起きたほどの大発明を一蹴し、地面に敷かれているタイルを一つずつ歩くことを自慢げに見せるミラ。


「……」


 なにが楽しいのか、一ミリたりとも解さない。いや、包容力のある男性なら、共感したり、多少お洒落な物言いをするだろうが、そこは世紀の非モテ魔法使い。そんな発想あるわけはなく、


⇒えぐいほどこき下ろす

⇒無視


 の2択しかない。


「……」


 結果、無視を選択。


 執事など最初からいなかったと言わんばかりに、隣の存在を気にすることなく歩いていると、


「……アシュ……さん?」


 背中から透き通った声が聞こえた。振り向くと、寝ぐせのついた黒髪をした20代半ばの青年が立っていた。アシュを見て酷く驚いた表情を浮かべているが、そのサファイアのような瞳、大きな目は、好奇心旺盛な気質を如実に表していた。


「や、やぁ……ライオール。久しぶりだね」


 如実に怯えた顔をする闇魔法使い。それは目の前の男にというより、周りの状況に対してだった。


 キョロキョロ。


 キョドキョド。


「安心してください。へ―ゼン先生はここにはいませんよ」


「……そうか! ま、まあ僕は全然気にしていないがね!」


「そ、そうですか。しかし、よく無事でいましたね。もう、生きて会うことはないかと思っていましたが」


 ヘーゼンの一番弟子であるライオール=セルゲイ。もちろん、アシュが封じられていることも知っている。


「ふっ……まあ、天才とだけ言っておこうか」


「……相変わらずそうで安心しました。で、その隣の少女は知り合いですか?」


 アシュの隣に立っている美少女がニコニコしながら前に出る。


「エヘヘ……初めまして、ミラで――「執事だが、恐ろしいほど無能でね。名乗らせるほどの価値もないから無視していい」


「ぐぐっ……あっ、ヘーゼンだ!」


「な……なにいいいいいいいいいい!?」


「うっそー!」


「こ、小娘……」


「ふーん! 大嫌いっ!」


 そんな二人のやり取りに、大きく目を丸くするライオール。彼の知る限り、この闇魔法使いにそんな口を聞く者など存在しない。


 ひとしきり酷い罵詈雑言を投げ合いながら、最終的にアシュが美少女の額を押さえつけて振り向く。


「……失礼。ライオール、この後、時間はあるかい? いろいろ情報提供してくれれば助かるね」


「ええ、もちろん」


 青年は極めて友好的な笑顔で頷いた。



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