決戦
アシュは一歩後ろへ下り、シスの後ろへ下がる。
「ミラ、ロイドを任せられるかい?」
その声に、リリーがキッと睨む。
「アシュ先生が戦うんじゃないんですか!?」
「なんで僕が。そう言う煩わしいことは、執事である彼女の務めだ。リリー君。君は、他のアリスト教徒と戦いたまえ」
「わ、私がやるんですか!?」
「他に誰がいるのだ? いや……まさか君は……ろくに魔法が使えないシスに戦わせるとでも言うのか? な、なんてロクでなしな……」
「ロクでなしはあんたでしょうが!? なんで、アシュ先生が戦わないんですか?」
「ふっ……君に実戦経験を積ませてやろうという僕の教師心じゃないか。教師の心生徒知らずと言うが……それは、君のような不良生徒にこそ当てはまる言葉だな」
「だ、だ、誰が不良生徒ですってぇ!」
そんな風に言い争っている最中、ロイドがミラに向かって魔法を放つ。
<<風の徴よ 猛き刃となりて 敵を斬り裂け>>ーー
竜巻が発生し、周囲の長机や椅子などを巻き込んでミラに襲いかかるが、
<<土塊よ 絶壁となりて 我が身を守れ>>ーー
前に大きな土の壁が発生し、その竜巻を受けきり相殺した。
「フハハハハハ! どうだい? 僕のミラは素晴らしいだろう。君の魔法など、僕が出る幕もないということだ。君の人形を壊した僕。僕の人形を壊せぬ君。どちらが魔法使いとして優れているかわかったかね?」
「こ、この男……何もやってないくせになんて偉そうな」
「リリー様。これが、アシュ様の戦闘スタイルです。私を酷使し、自らを誇り、敵と自分の優劣をひたすらに語りかける。全くいつも通りです」
「さ、最低……」
現にロイド。もはや、何も話さない。話さないが明らかに魔法を唱える手は怒りで震えていた。
「さて、シス。敵は我が忠実なしもべが引き受けてくれている。邪魔者がいなくなったところで君と語らうとしよう」
アシュは「誰があんたのしもべよ」と叫ぶリリーの声をスルーしてシスの頭を撫でる。
「アシュ先生……私、どうしたら……」
「さあ」
「……」
「僕は僕が思っていることを話した。もちろんロイドもサモン大司教もね。僕はサモン大司教の話を嘘だと言ったが、それは僕の見解だ。君が彼の言葉を信じるのならそうすればいい。僕の言葉を信じてなお、彼の言うように魔法の使えずに苦しむ人のために命をかけるという選択をしてもいい」
「アシュ先生……」
「結局は自分が決めるしかないのだよ……いや、誰かに決めてもらうという楽な選択肢を選ばないことだ。これは、僕が教師として君に言えることだ」
「……私は、魔法が使えずにずっと苦しんでいました。その苦しんでいる人の力になれるのならって。でも……」
「でも?」
「だからって……私、死にたくない! 他に大勢の人が苦しんでいるってわかってる……でも、私の命を犠牲にして……みんなが救われても全然嬉しくない。どんなに意地汚くても、欲深くても、私はもっとリリーと一緒にいたい。アシュ先生の授業を受けていたい。クラスのみんなと笑っていたい! みんなといたいよぉ」
シスが目に涙を溜めながら答える。アシュは優しい笑顔を見せて、彼女の瞳に溜まった涙をサッと拭った。
「……だ、そうだよ?」
そうサモンに投げかける。
「……己の欲を優先させるとは……愚かな」
「愚かで構わないさ……こんな可憐な少女の命を犠牲にしてしか救われない世界ならば、僕はいっそ世界を軽蔑する。神を軽蔑する。意地汚くも、少女の命を欲した神をね」
「神を愚弄するとは……許されることではないぞ」
サモンもまた、静かに魔法の詠唱の構えをみせる。
「天国で神に伝えるといい! 首を洗って待っていろ。僕はいつか、あなたすら殺してみせると!」
アシュは歪んだ笑みを浮かべそう叫びサモンの詠唱に対し構えをとった。
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