第5話「異世界だが如何にも」

 俺達は次の仲間がいるはずの町へと歩いていた。

 しっかしこの道、江戸時代の東海道かと言いたくなるような並木道だな。

 あの木って松じゃねえか。

 ほんとこの世界っていろんなもんがごちゃ混ぜになってるわ。

 

「トウマ、どうしたのー?」

 イリアが俺の顔を覗きこんできた。

「ああ、俺がいた世界にもこんな道があったなあ、と思ってさ」

「あ、そうなんだー。じゃあホッとするんじゃない?」

「そうだな、ここが異世界だって事を忘れそうだ」

 俺はしばらく物思いに耽りながら歩いていた。


「マオリお姉さん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとうね」

 おや、マオリはちょっと疲れたのかな?

 彼女の隣でニコが心配してるよ。と思った時


「皆、あそこで休憩しないかにゃ?」

 マウがそう言って指さした場所にあったのは、なんか如何にも時代劇に出てくるような茶店だった。


「あ、いいわねー。ねえ皆、そうしよっかー?」

 イリア手を上げて言った。

「そうだな。マオリとニコもいいか?」

 そう尋ねると二人共頷いた。


 そして茶店に入ると、これまた如何にも時代劇に出てくるようなおばあさんが注文を聞いてきた。

 その後皆でお茶を飲み、団子を食べながら寛いでると

 

 キャアー!


「な、何だ!?」

 声がした方を見ると

「おうおう、親分にぶつかっといてその程度で済むと思ってんのかよ!」 

「親分、この女どうしやす?」

「そうだな~、とりあえず連れて行け」


「だ、誰か助けてー!」


 何か如何にも時代劇に出てくるチンピラって感じの野郎数人が時代劇に出てくるような町娘を……って、いかん。早く助けないと。

 と思った時


「おい貴様等、その娘を放せ」

 チンピラにそう言ったのは、長い黒髪を後ろで束ねていて、目つきがやや鋭いが綺麗な顔立ち。

 蒼い陣羽織に白い袴、背に長い刀を担いだ如何にも侍って感じの人だった。

 ってあの人は。


「あ? なんだテメエ、やるのか? おいてめえら、やっちまえ!」

「へい!」


 チンピラ子分達は腰に差していたドスを抜き、その侍に向かっていったが


「……はあっ!」

 掛け声と共に金属の打ち合う音が聞こえ


「へ?」 

「あ、あれ?」

 チンピラ共のドスは全て折れていた。


「ふん、その程度で私を倒そうとは片腹痛い」

 いつの間にか侍の手には背にあった刀が。そして


「はっ!」

 次の瞬間、侍はチンピラ達の後ろに回りこんだかと思うと


「が……」

 奴等は一瞬の内に蹲っていた。


「な、なんだと……?」

 親分の顔からは血の気が引いているように見えた。


「後はお前だけだな。どうする?」

 侍はその親分を睨みつける。


「う、う、覚えてやがれ!」

 そしてお決まりの捨て台詞を残してチンピラ共は逃げていった。


「ふん。さて、怪我はなかったか?」

 侍が町娘に声をかける。

「は、はい。ありがとうございました」

「いや、いい。では」

 侍はそう言って去ろうとした。って


「あ、あのちょっと待ってください!」

 俺はその侍に声をかけた。

「ん、何だ?」

 侍が振り返って俺を見た。


「うん。あの、ちょっと話を聞いて欲しいんですけど」

「すまぬが私は先を急ぐので」

 そう言って前を向いたが

「あの、あなたにとって悪い話じゃないですよ。だって俺はに帰る方法を知ってるんだから。ねえ、『佐々木小次郎ささきこじろう』さん?」

 俺が小声で呼び止めると

「……何者だ、貴様」

 侍、いや佐々木小次郎さんがまた振り返り、俺を睨んだ。


「俺も違う世界から来たんですよ。そしてその時に女神様から貰った不思議な力であなたの事を知ったんです」

「……嘘ではなさそうだな。わかった。話を聞こう」

 そして俺達はさっきの茶店で事情を話した。


「なるほど。大魔王とやらを倒せば皆がそれぞれの世界に帰れると。そしてその為に私をか」

「そうですよ。あなた程の人がいてくれたら百人力、いや千人力ですよ」

「ふむ、わかった。私も共に行かせてもらおう」

 小次郎さんは頷いて了承してくれた。


「しっかしめちゃハンサムだわー! あたしアタックしよかなー!」

「ふにゃー! あたしと(ズキューン!)しよにゃー!」

 

「あの~、どうします?」

 俺は盛ってる女共を指差しながら尋ねた。

「どうせ君は知っているのだろ? なら皆にも話しておくか」

 そしてイリア達の前に行き

「皆、私はこんな格好をしているが実は女だ」

 小次郎さんは自分を指さしながら言った。

「えー、嘘ー!?」

「そ、そうなの?」

「ふにゃー! 女の子でもいいにゃー!」

 こら若干一名!

「えーと、どういう事なの?」

 ニコが首を傾げながら聞いた。


「ああ、私は『佐々木小次郎』という我が国では有名な剣豪の孫なのだ。私は祖父の名を名乗り、男として武者修行の旅に出ていたのだ。本名はりんという」

 そうなんだよな。

 しかし俺がいたのとは別世界だけど、そこにもあの巌流佐々木小次郎がいたんだな。

「そうなんだー? でも別に女の子のままでもいいじゃん、何で?」

 イリアが首を傾げながら尋ねる。

「女だと侮られると思ってな。できれば皆も私の事は小次郎と呼んでくれ」

 そう言って小次郎さんは頭を下げた。


「はい……あれ?」

 小次郎さんを見てマオリが首を傾げた。

「ん、どうした?」

「あの、違っていたらすみませんが、ゴニョゴニョ」

 マオリは小次郎さんに何か耳打ちした。

「……そうだ。私は」

「だったら戦っちゃ駄目でしょ!」

 マオリが思いっきり彼女に向かって怒鳴った。


「え、え? いったい何?」

 イリアが首を傾げ

「ふにゃ……あ、私もわかったわ。たしかに駄目ね、それ」

 マウが口調を変えて頷いた。


「え? あの、もしかして小次郎さん、どっか具合悪いの?」

 俺にはそこまで見えてないが?


 するとマオリがこっちを向いてこう言った。

「違いますよ、この人妊娠してるんです!」


「「な、なんだってー!?」」

 俺とイリアは声を揃えて叫んでしまった。

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