次はまたスカイツリーで

三沢美弥

第1話 出会いが偶然すぎて

 田舎の高校を卒業して、都内の大学に通うため、僕は一人暮らしを始めた。学校はアパートから地下鉄で5駅。

 通勤通学のラッシュはつらい。電車の中は人でごった返し。この電車に一体何人の人が乗っているのだろうと考えてみた。1,000人は乗っているか、それ以上か。そして、それぞれの人が様々な場所を目指して電車にゆられている。そして、車両に乗り合わせた人が、また別の電車で同じ顔ぶれになる。ということも、絶対的にありえないのだ。


 授業が終わると、また電車に揺られ、アパートに帰る。大教室での授業が多いせいか、なかなか友達ができないでいた。

 ある日、スーパーで晩御飯の惣菜を買ってアパートに向かって歩いていると、後ろから、僕と同じ道を歩いてくる女性がいることに気づいた。始めのうちはあまり気にしなかったが、アパートのそばまで来ても、僕と同じ道を歩いて来ている。もしかして、同じアパートなのかもしれない。そうこう考えている間に、後ろの女性が歩く速度を上げたのか、僕との距離は狭まって来ていた。

 僕の部屋は2階の角部屋。階段を登っていくと、後ろから女性も登ってくるのが見えた。鍵を開けて部屋に入ろうとすると、

「あのう、すみません。」

と声をかけられた。どうやら、彼女は僕の隣の部屋に住んでいるらしい。

「私、川奈と申します。お隣に住んでいます。もし、夜中、音楽とかうるさかったら言ってくださね。」

 天井の明かりで彼女の顔がはっきりと見えたが、歳は僕と同じくらい、背は小柄で、ロングの髪。何と言っても、可愛かった。

「僕は、加藤と言います。こちらこそ、音がうるさかったら言ってくださいね。田舎から出て来て、どうも東京に馴染めなくって。」

 僕は、もう少し話したい。そう思ったが、彼女は話を打ち切るように、

「それじゃ、失礼します。」

 そう言って自分の部屋の中に入って言った。


 ここに越して来て、1ヶ月とちょっと経つが、隣の部屋からは音楽どころか物音一つ聞こえな買った。部屋を仕切っている壁が厚いのか、それとも、彼女がひっそりと暮らしているからなのか。逆に、僕の部屋の音は隣に聞こえているのだろうか。そして、次に彼女と顔を合わせるのには、数ヶ月を要した。

 その間、彼女のことが気にならなかったといえば嘘になるが、新しい東京での暮らしに慣れるために僕はいっぱいいっぱいでそれどころではなかった。




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