六、そして日常へ
「おはよーございまーす!」
そうして今日も、私は部室の扉を叩く。
「おーヨッシー、おはよう。今日も元気いいね」
「吉川、いいところに! 小六法、貸してくんねえ!?」
部員達が賑やかに迎えてくれる日もあれば、誰もいなくて鍵が掛かっている日もあり。夜中まで残って作業をする日もあれば、人が集まらずに早々にお開きになる日もあり。
そして時々――本当に時々だけれど。
「やあ、吉川さん」
読んでいた本からひょいと顔を上げて、爽やかに挨拶してくるその人は、いつだって変わらぬ風貌で。
「コンノさん! 最近ぜんぜん顔を見せてくれないと思ったら! ヨシくんとはしょっちゅう会ってるみたいじゃないですか!」
「だって彼、今期は五限の授業取ってるから、遅い時間に教科書を置きに来ることが多くてさ。よく顔を合わせるんだって」
「ずるいですよ、私だってコンノさんとお話ししたいのに!」
「ヨシくん経由で話は聞いてるんだから、いいでしょー」
「よくないです! ヨシくん、要点しか教えてくれないんですもん」
「オイ、吉川。外まで声が響いてるぞ」
突然背後から響いてきた声に、ぎゃっと飛び上がる。
「おやヨシくん、いつの間に」
からかい交じりの声に、むすっとした顔で鞄を置く今野さん。
「その呼び方はやめろ。まったく、お前が余計なことを吉川に教えるから、他の部員にまでその呼び方が浸透したじゃないか。どうしてくれる」
「だーって、どっちもコンノだと、吉川さんが呼び辛いじゃない?」
「大体お前がそんな安直な名前を名乗ってるからいけないんだ。狐だからコンノとか、適当過ぎるだろ」
「あ、そういう意味だったんだ……」
「いーじゃない、分かりやすくて」
楽しそうに笑うコンノさんと、理路整然と文句をつける今野さん。喧嘩するほど仲がいい、と評したら、二人揃って否定してくるから、これまた面白い。
コンノさんと私。それと時々、今野さん。
忙しない時の流れにぽかっと空いた、まるで奇跡のような時間と空間で、私達は今日も笑いさざめく。
この『すこしふしぎ』な日常が、いつまでも続きますように。
私はそう、願っている。
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