泥中の蓮

@hiiragi_kazuya

生まれた罪

 僕にとって、家は安らげる場所ではなかった。物心ついた時から両親に白い目で見られ、食事は毎日レトルト食品。服は三着を着まわして、ズボンは同じものを履き続けた。着られなくなる頃に、父の着なくなった古い服を支給される。

 三年前に買ってもらった少し大きめの白い靴は、今じゃ足の成長を妨げるくらい窮屈で、自身が白であったことをもう思い出せない程に黒ずみ、つま先の方はワニのようにおおきな口を開けていた。

 それでも、僕は母さんに殴られるのが怖くて、何かを買って欲しいと強請ったことは一度もなかった。


 特別、何か悪いことをした記憶はない。生まれた時からそうなのだから、こういった嫌がらせは僕が「何かした」ことに起因するものではなく、「僕という存在」が両親にそうさせているのだ。けれど幸い、彼らは僕の命まで奪おうとはしなかった。僕を育てることは不本意だが、犯罪者にはなりたくないのだろう。僕は生きていく為に、生まれた罪を償おうと決めた。


 小学校では必然的にいじめを受けた。臭い、汚いと罵られ、クラスメイトからはバイキン扱いされた。まぁ、当然だ。僕だって毎日似たような服を着ているやつなんか、不潔だからなるべく関わらないようにするだろう。

「長谷川菌がついたー!」

「うわぁっ、きったねぇ。逃げろー!」

 僕の私物に触れ、クラスのカースト上位の連中が鬼ごっこを始める。それを眺めるのが僕の日常。

 いじめに参加しない優等生はいても、自分がいじめられる立場になるのを恐れていじめを注意できる者は誰一人としていなかった。

 でも、六年間一度も殴られはしなかった。ワニの靴を隠されたり、ランドセルの中に牛乳を入れられたり、教科書を刃物でズタズタにされても、誰一人僕の事を殴れる奴なんていなかった。だって、僕に触ると汚いから。

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